ウェルズ・ヴェルティージュ 試作車へ試乗 フォード製2.0L NAをミドシップ 前編
公開 : 2021.11.16 08:25 更新 : 2024.04.27 23:18
ボディのデザインもシャシーの設計も自ら
実際、ウェルズはクラシック音楽への造詣も深い。古くからの明言に、建築は凍結した音楽である、というものがある。カタチは違っても、芸術という点で共通しているのだ。クルマのデザインも、同じものだと彼は考えている。
5年半ほど前にウェルズはデザインを仕上げ、作りかけのシャシーとともに、ボディを知人のロビン・ホール氏の元へ持ち込んだ。彼はBMWミニのシャシーや軍事的な車両開発など、多くの経験を有するエンジニアだ。
ボディのデザインとクルマのコンセプトは明確で、ホールも共感してくれたが、フレームの設計は充分とはいえなかった。最初から設計し直す方が簡単だったらしい。そこでCADに向かい、さらに1年半を費やした。
といっても、ウェルズは中東での事業が忙しく、ホールも別のクライアントの案件に取り組んでいた。作業はゆっくりと進み、高張力鋼板によるモノコック・シャシーと、鋼管による前後のサブフレームが練られた。
設計がまとまり、ヴェルティージュが製造段階に入ったのは3年前。CADの画面だけでなく、実際にカタチにすることの難しさと重要性を、2人は良く理解していた。
ケブラーを用いた複合素材のボディは、3度も試作。このプロトタイプでは、技術力の高い地元企業へ依頼して作られている。エグゾーストはステンレス製だが、4度の試作を経ており、ホールのチームが製造を担当している。
「生産台数が少ないとしても、自動車メーカーになるには粘り強さが必要です。孤独を感じる時も珍しくありません」。とウェルズが説明する。
NA 2.0Lで最高出力210ps、車重850kg
2人はウェルズ・モーターカーズ社を設立し、ヴェルティージュのサプライチェーンが構築された。例えばアルミホイールは、スピードライン社へ依頼したオリジナル品だ。まだ開発の最終段階として、苦労しそうな課題は多く残っている。
量産モデルの生産は、2022年の夏頃にソウザンにある施設で始まる予定。ホールが所有する建物のそばに、組立工場が完成するという。
これまでに、このプロジェクトの投資者へ提供される、ファウンダーズ・エディションが7台、試乗してくれた一般の顧客向けに5台が売れている。ウェルズ・モーターカーズ社の事業は、本格稼働が始まっているといえるだろう。
2人が作り上げたヴェルティージュは、高剛性の小さな2シーター・クーペだ。車重は850kgと軽く、フォード由来の2.0L 4気筒ツインカムの自然吸気ユニットを、横方向でミドシップする。最高出力は標準仕様で210psだという。
パワーは大幅に引き上げることも可能だが、ウェルズにとっての優先事項ではない。現在の仕様でも、0-100km/h加速を4.6秒でこなし、最高速度は225km/hに設定される。まったく不足はない。
「本質であることが、喜びを生みます。速いクルマを目指していますが、恐ろしく速くはしません」。と考えを話すウェルズ。
ユニークなデザインのドライバーズシートに身体を収めると、小さなGTレーサーに乗ったような印象を受ける。とてもエキゾチックな車内だ。
この続きは後編にて。