フェラーリSF90ストラダーレ 詳細データテスト 記録的な速さ 物足りない限界域でのハンドリング
公開 : 2021.11.13 20:25 更新 : 2021.11.14 06:41
走り ★★★★★★★★★★
最近のフェラーリについて知識があれば、マネッティーノのなんたるかはご存知だろう。いわゆる走行モードのセレクターで、ウェット/スポーツ/レース/CTオフ/ESCオフから選択できる。その反対側には、パワートレインの作動モードを選ぶタッチパネルが備わる。
走り出しはハイブリッドモードがデフォルトで、通常はスターターボタンを押してもエンジンがウンともスンともいわない。なにしろこれはフェラーリなのだから、最初のうちはあまりにも奇妙なことに思える。
しかし、走りはじめてしまえば、そこからはドライバーに決定権が委ねられる。EV走行をするeドライブ、エンジンの加勢が増すパフォーマンス、そして全力を叩き出すクオリファイといったメニューが用意されている。
クオリファイモードでは、パワーを存分に発揮するばかりでなく、トラクションコントロールとローンチコントロールがもっともアグレッシブなセッティングに切り替わる。タイヤを温めてから切り替え、それを試すのに適した状況に置かれれば、SF90は度肝を抜くような加速を味わわせてくれる。
これまで、オートカーが行ってきたロードテストの最速レコードは、2011年のブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツのものだった。0-97km/hのタイムは2.6秒、0-161km/hは5秒フラット、そしてゼロヨンは10.1秒である。
この10年、マクラーレンP1をはじめ、アリエル・アトムV8やポルシェ918スパイダーなどの強豪が挑み続けてきたが、この記録が破られることはなかった。ところが、SF90の記録は2.5秒/4.8秒/9.9秒。ついに、レコードブレーカーが誕生した。
ヴェイロンは確かに速かったが、32km/h刻みの中間加速では、1秒以下の差でありながらトップには立てなかった。それは、どのギアでも、どの速度域でもだ。しかし、SF90は2度、新記録を達成している。
これは、少なくともわれわれが計測した中では、前例のないパフォーマンスを見せつけたクルマだ。とんでもないポテンシャルを秘めていることが感じられるが、あくまで荒々しさよりスムースさが優っている。
ターボエンジンのスーパーカーで発進が荒っぽいものを、ゴツゴツした急峻な岩肌を転げ落ちていくさまにたとえるとしたら、このフェラーリの加速はまるで、垂直な平面に沿っての自由落下だ。
トラクションは非常に強力だが、完璧なまでに制御されている。トルクは瞬時に立ち上がり、速度が160km/hを超えるあたりまで衰えない。ギアチェンジは耳で感じるほうが、身体で感じるよりずっと楽だ。
そして身体が加速Gに慣れたころに視線を速度計へ向けると、200km/h近い数字に達している。それからどこかで、息を止めていたことを思い出す。
公道上では、この速さも、純粋でレスポンスのいい極限のトルクも、反社会的なラインスレスレに思えるかもしれない。しかし、SF90は、それだけが売りのクルマではない。
ハイブリッドモードで走らせれば、そのキャラクターはもっと穏やかなものになる。法に触れるのではないかと気兼ねすることなく、スロットルを踏み込めるようになるのだ。
モーターとエンジンの協調ぶりや、スロットル操作に応じた使い分け方は、じつによくしつけられている。バイワイヤのブレーキシステムも、低速域でも摩擦ブレーキとモーターのエネルギー回生を巧みに組み合わせ、多くのパフォーマンス志向のハイブリッドカーに備わるブレーキよりずっとうまく機能してくれる。
このクルマのフィールはナチュラルで、一貫性がある。それは、V8エンジンが回っていても止まっていても変わらない。
また、エンジンを完全停止して電力のみで駆動するeドライブモードでは、一般道で普通に使うとフル充電で26km弱は走れる。最高速度は137km/hほどで、それを超えるとエンジンが始動する。
その状態では速さもエキサイティングさも足りず、フェラーリらしいドラマティックさとは無縁の存在に感じられる。だが、日常使いならほぼすべてのシチュエーションをまかなえるだけの性能で、都市部の道路環境にはむしろ合っている。
つまり、これはさまざまなセッティングで使うことができるクルマだ。世界最速級のハイパーカーの中には、量産車ではあっても凶暴で、市街地のひどい渋滞にはまるのはまっぴらごめんというようなものもあるが、SF90ならそんなことはない。現実的な環境に置かれても、思いどおりに走れる。
そうはいっても、SF90の真の魅力はバーサタイル性にあるわけではない。その電動化メカニズムを掛け値なしに驚異的なスピードを生むために用い、フェラーリのV8ならば当たり前のドラマティックさと熱い魂に融合したときこそが、このクルマの真骨頂なのだ。