昔よりクルマが買いづらい? 「所得上がらず、クルマは値上げ」説を検証
公開 : 2021.11.19 05:45 更新 : 2021.11.20 16:50
クルマは値上げ なぜ?
クルマが値上げされた1番の理由は、安全面を中心に機能や装備が充実したことだ。
1994年頃の日本車をみると、現在の乗用車の大半に装着される衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能は、まったく実用化されていない。
装着が義務付けられている横滑り防止装置も、日本車で最初に採用したのは1995年に発売された2代目クラウン・マジェスタだから、1994年の時点で装着車は存在しなかった。
そうなると実用化されていた安全装備は、四輪ABSとエアバッグ程度だ。
しかも当時の安全装備は価格が高く、1989年に発売されたアコード・インスパイア&ビガーのオプション価格は、エアバッグ(運転席のみ)が17万1000円、四輪ABS+トラクションコントロールは19万8000円だった。
今では常識的に装着されるこの2つの安全装備が、両方ともにオプション装着すると、合計額は約37万円に達していた。
このような事情を考慮すると、今のクルマは当時に比べて価格を1.2倍以上に値上げしたが、機能と価格のバランスでは、むしろ割安になっている。
先に挙げたアコード・インスパイア&ビガーの要領で安全装備の価格を上乗せしたら、横滑り防止装置、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能まで加えると、それだけで総額は100万円に達する。
またこのアコード・インスパイア&ビガーの10・15モード燃費は、直列5気筒2Lエンジンを搭載する4速AT車が9.3km/Lだった。
今のWLTCモード燃費に置き換えると7km/L前後だ。
一方、今のセダンのWLTCモード燃費は、直列4気筒2Lターボを搭載した動力性能の高いクラウンRSでも12.4km/Lだ。
環境技術と燃費性能の向上も考慮すると、今のクルマはさらに割安になる。
今のクルマは買い得?
クルマにとって交通事故は最も重大な欠点だから、今日の安全装備の充実は好ましい。
新しいクルマに乗り替えることで得られる1番のメリットも、安全性の向上だ。
古いクルマにも独特の味わいがあるが、安全性の向上はそれを上まわる。
しかも先に述べたとおり、設計の新しい今日のクルマは、安全装備を割安に装着している。
今のクルマは明らかに買い得になった。
ただし買い得になっても、安全装備の充実でクルマの価格が20%以上高まり、その一方で平均所得は20%少々減ると、ユーザーにとっては辛い。
今も昔も、クルマを買うときには、価格を200万円前後と考えることが多い。
とくに子供が就学年齢に達しているファミリーユーザーにはこの傾向が強く、かつてのミニバンの特別仕様車は、価格を200万円弱に設定していた。
マークII(生産を終えたマークXの前身)も、価格が200万円弱の特別仕様車を用意することが多かった。
それが今は値上げによって状況が変わり、200万円以下で購入できるのは、ヤリス1.5 Z(197万1000円)、フィット1.3ホーム(176万7700円)、ルーミー・カスタムG(191万4000円)、ヤリス・クロス1.5X(189万6000円)といったコンパクトカーやコンパクトSUV、あるいは軽自動車が中心だ。
ダウンサイジングする切実な事情
クルマの価格が高まり、所得が減れば、ユーザーとしては愛車を乗り替えるときにサイズを小さくするしかない。
「ダウンサイジング」という言葉には、賢い印象もあるが、実際はユーザーの切実な事情の上に成り立っている。
岸田文雄首相が賃上げに意欲を見せるが、実際に平均所得が高まるか否かは不透明だ。
そうなると今後もコンパクトカーやコンパクトSUV、軽自動車が好調に売られ続ける。
そしてクルマの値上げと所得の減少が続けば、仕方なく古いクルマに乗り続けるユーザーも増える。
初度登録(軽自動車は届け出)から13年を超えたクルマの増税は、直ちに廃止すべきだ。
これ以上、税金でユーザーを困らせるのはやめてもらいたい。