ジャガーXK140/フォード・サンダーバード 英米の2シーター・コンバーチブル 前編
公開 : 2021.12.11 07:05
同時期に誕生した、ラグジュアリーな2シーター。まったく異なる見た目に秘めた共通性へ、英国編集部が迫りました。
ムダの少ないスタイリングの2シーター
1950年代のアメリカ車は、過剰なほど派手で巨大だった。その頃の英国人には、相容れないようなスタイルだったといえる。だが、1955年のフォード・サンダーバードも当時の代表的なモデルといえるが、そんなイメージとは少々異なるところが面白い。
フォードが上流志向のパーソナルカーとして生み出したのは、豊満なボディを沢山のクロームメッキで飾ったモデルではなかった。ムダの少ないスタイリングが与えられた、2シーター・コンバーチブルだった。
スタイリッシュでコンパクトなボディに、パワフルな4.8L V型8気筒エンジンによる楽しい走り。企業の経営層やビバリーヒルズのご婦人へ、優れた性能を提供した。Tバードという愛称も付けられ、すぐに広い支持を集める存在になった。
ミシガン州ディアボーンを拠点とするフォードが、上級モデル市場への足掛かりとしたのが、このサンダーバード。ブランドのイメージを高めつつ、富裕層へ迎え入れてもらえるモデルを生み出すことに成功したといえる。
1940年代後半、フォードの上級ブランドに当たるリンカーンでは、大型サルーンのコンチネンタルに空白期間が生じていた。フォード系のモデルは、裕福なドライバーの相手にはされなくなっていたのだ。
ソフトトップすらオプション設定
当時のフォードといえば、手頃で信頼性は高いものの、クルマとしての興奮度は低いというイメージがつきまとっていた。それを振り払おうとしたのが、コンチネンタルMkIIより一足先に登場した、初代サンダーバードだ。
上品なコンバーチブルがベースとしたのは、一般的な既存のモデル。スタイリングも同時期の平凡なフォード車に似ていたものの、ずっとハンサムに仕上がっていた。
2シーターのサンダーバードは、オープンであることが前提。グラスファイバー製のハードトップだけでなく、ソフトトップすら75ドルのオプション設定だった。
華やかな見た目のコンバーチブルは、ショールームに客足を向ける花型モデルにもなる。サルーンのフェアレーンやステーションワゴンのカントリー・スクワイヤへ興味を抱いてもらうきっかけになることを、フォードは理解してもいた。
ちなみに車名に用いられたサンダーバードとは、アメリカの先住民族に伝わる、ワシのような大きな鳥の神。自由自在に雷を落とせると信じられていた。北米で支持を集める欧州製のスポーツカーに対する、フォードなりの反発だったのだろう。
同時に、フォードとシボレーとの駆け引きで生まれたモデルでもあった。その頃の2社は次期モデルをスパイすることで、お互いに牽制し合っていた。シボレーがスポーツカーを開発中だという噂を耳にした、フォードによる回頭でもあったのだ。