元WRC王者、リチャード・バーンズへの想い 友人が語る素顔 世間との「ギャップ」も
公開 : 2021.11.28 06:05 更新 : 2022.11.01 08:57
世間には見せなかった王者の素顔とは
リチャードはとてもポジティブで、一緒にいるととても楽しい人だったので、このような一面が世間に知られることがなかったのは残念だ。しかし、彼の周りには常に仲間や友人、そして少数の取り巻きがいて、それが彼をよそよそしく、飄々とした難物に見せていることもあった。
ラリーで厳しい状況に陥ったときは、ネガティブな印象を与えることがあった。彼は世界チャンピオンになりたいという前向きな気持ちと決意を持っていたが、人々は彼の性格を気分屋だと捉え、それが報道されるとリチャードを苛立たせ、さらに引きこもろうとしてしまう。あれは本当のリチャードではない。
本当のリチャードは、初期の頃、レース終了後に「The Fox」というパブに顔を出して、地元の人たちに最新の成功体験を語って楽しませていた男だ。あるいは、パーティーの中心にいて、みんなが自分と同じように楽しんでいるかどうか確認していた男だ。
男性としても魅力的であった。寝室が彼の部屋の下だった人だけが自信を持って言えることだ。やがて彼は落ち着くようになったが、暇さえあればスパナを持ってラリーカーの下に潜り込んでいたレディング出身の少年は、最初の数年間で女性について多くのことを学んだと言っていいだろう。
彼は量産車にも造詣が深く、996世代のポルシェ911 GT3や1967年式のシボレー・カマロSSなどがお気に入りだったと記憶している。
慎重なところもあり、お酒を飲むときは自分の限界を知っていた。路上で誰かに煽られたとしても、模範的なドライバーであった。「リンフォード・クリスティ(陸上競技選手)は店まで走らない」といつも言っていた。でも、彼がチャールベリー近郊で事故を起こした後、近所の人たちに砂利道に浮いた油膜を掃除させられたことはよく覚えている。
それから、わたしの結婚式のときのことも忘れられない。南アフリカに24人の友人を連れて出かけ、観光用にクルマを手配したのだが、リチャードが喜んで運転手を務めてくれた。ある大きな自然保護区で砂利道を走っていると、仲間の1人であるアマチュアのラリードライバー、リチャード・ストードリーが、もう1台のクルマで彼と競争しようとしたのだ。そのせいで砂埃が舞い上がり、動物はちっとも見られなかった。
リチャードは気遣いもできる人だった。お隣さんが白血病と診断されたときも、12歳の娘さんの学校の送り迎えを申し出た。辛い時に娘さんが笑顔になってくれるということで、彼はとても喜んでいた。それがリチャードだった。
あと気前がいい。モンテカルロ・ラリーはいつも彼の誕生日と重なっており、前日にお祝いのディナーを抜くことはなかったが、彼がお金を払ってくれるのだ。カメラマンの目の前でそんな姿を見せるのはリスキーだが。