ホンダNSX タイプRとNSX-Rへ英国試乗 別格で究極の初代 キモは徹底的な軽量化
公開 : 2021.12.26 13:45
専用ボディキットで空力特性を向上
初期のNA1型NSX タイプRは、これまでに筆者が運転したスポーツカーで、最も高次元に完成された1台だ。ところが、さらに1段上の水準が存在していた。NSX-Rだ。
NSX タイプRの生産は2005年に終了してしまうが、7年後、辛抱強く待っていた世界の人々へホンダはNSX-Rを提供した。正式に英国へ導入されることはなかったが。
ベース車は、2001年にマイナーチェンジを受けたNA2型。V6エンジンは3.2Lへ排気量が大きくなり、6速MTが載っているが、タイプRと同様に主眼が置かれたのは軽量化だ。
エンジンルームのガラスカバーは薄くなり、レカロ社製のバケットシートはケブラー素材に。エンジンは入念にバランス取りされ、専用のボディキットで空力特性を向上させている。
大きくエアアウトレットが開けられたボンネットは、カーボンファイバー製。アグレッシブな印象を与えるだけでなく、空気力学的に安定性を高めている。加えて2.2kgも軽い。
ダウンフォースと前後の重量配分をバランスさせるため、ボディ下面を流れる空気を、ボンネット上部から吸い出す構造を取っている。カーボン製のウイングやディフューザーも、その機能を高めていた。
NSX タイプR以上にレーシーな雰囲気が強い見た目だが、乗り心地も明確に違う。サスペンションのスプリングはブロックのように硬い。英国南部、路面が荒れたダンスフォールドのテストコースではなく、滑らかな鈴鹿サーキットを前提としているようだ。
タイプRは483台、Rは152台
バケットシートのクッションも薄い。正直、日常的な速度域では乗り心地を受け入れることが難しい。
しかし3速までシフトアップし、アクセルペダルを踏み込むと、サスペンションに納得できるようになる。ステアリングも、息を吹き返したように明瞭になる。3.2LのV6エンジンからは聴き応えたっぷりの咆哮が響き渡る。
タイプR以上の軽量化と、サーキット志向のサスペンションやルックスを備えつつ、高速域でのNSX-Rは驚くほど快適。低速域での振る舞いを忘れてしまう。夏場にうれしいエアコンと、ステレオも付いている。シートは電動で調整すらできる。
通常のNSXを遥かに超えるパフォーマンスを実現した、究極のNSX-Rだが、製造台数は152台に留まった。NA1型NSX タイプRの483台より、更に少ない。
新車時の価格は1万5000ポンドほど高く、購入する人を選んだ。しかし限られた賢明なドライバーは、深遠なドライバーとの一体感に浸ることが許された。初代の生産終了から15年が経過するが、NSX-Rの見事な仕上がりには今でも言葉を失う。
マイク・ジェームズ氏がオーナーの真っ赤な1台のように、極上のNSX-Rの場合、取引価格は50万ポンド(7600万円)を越えるという。理想的なホンダNSXは、一層夢のクルマになってしまったらしい。