ヴォグゾールMタイプとサンビーム14/40 100年前のファミリーサルーン 前編
公開 : 2022.01.02 13:45 更新 : 2022.08.08 07:17
スポーツ・エンジンのオプションも設定
サンビーム・モーター・カー社を1905年に創業したジョン・マーストンが1918年に死去し、タルボ社とダラック社との3社で合併したのが1920年。1922年に発売された14/40は、新生ブランドの幕開けを象徴するモデルといえた。
初期のサンビーム・フォーティーンの価格は、ヴォグゾールMタイプと同じ650ポンド。前例のない早さで開発されたが、実際は新しい姉妹ブランド、ダラック 12hpの派生モデルでもある。
エンジン開発を率いたのは、同社のチーフエンジニアだった、ルイス・コータレン氏。サンビーム・グループの新拠点としてフランス・パリにスタジを構え、フォーティーンの先進的なオーバーヘッドバルブ・ユニットが設計された。
車名に14が与えられているが、4気筒エンジンのシリンダー径、ボアは当初72mmで、実際のRAC馬力は12.8hp。その後すぐにボアが75mmに拡大され、RAC馬力は14hpへ引き上げられている。
トランスミッションとクラッチが一体という点で、ヴォグゾールと共通している。排気量は2121ccで、Mタイプより176cc小さい。
モデルの進化も早かった。1923年にはエンジンのボアアップだけでなく、ブロックをアルミから鉄へ切り替え、耐久性を高めている。
スピードレコードを保持していたサンビームらしく、スポーツ・エンジンのオプションも設定。吸気マニフォールドとキャブレター、高圧縮ピストンを組み、動力性能を高めることを可能とした。
35ポンドの追加費用で、四輪ブレーキを装備することもできた。ヴォグゾールでは、1925年のLMタイプの登場まで選択できなかった装備だ。
現存2台のみという極めてレアな仕様
今回の取材場所は、英国東部、チェシャー州にあるマナーパーク・クラシックス社。オークションを主催する企業で、ヴォグゾールのクラシック・コレクションを管理し、ブラウンに塗られたMタイプも維持している。
ダークブルーが艷やかなサンビーム14/40は、英国中部のケンブリッジシャー州に住むマイク・ダンサー氏の愛車。サンビームの工場があった、ウルヴァーハンプトンからほど近い街だが、チェシャー州までお越しいただいた。
NU 2525というナンバーは、1924年2月28日の登録時のまま。最初のオーナーはシドニー・テイラー氏という弁護士で、母からのプレゼントだったという。現存するこの仕様は2台のみと考えられており、極めてレアだ。
基本的な見た目や構造は初期のフォーティーンと一致するが、互いにリンクされた四輪ブレーキなど、部分的に後の14/40へ採用された部分も備える。ラジエーターと低いボンネットラインはフォーティーン譲りだ。
現オーナーのダンサーは、実質的に3番目のオーナーらしい。2番目のオーナーはケン・ウィルソン氏。1957年に農場の納屋で、残念な状態の14/40を発見したという。
納屋の持ち主によれば、1939年にとある兵隊からクルマの保管を依頼されたが、終戦を迎えてもオーナーは迎えに来なかったそうだ。そのまま放置されていた14/40を、ウィルソンは12ポンドで買い取った。
彼は時間を掛けてクルマを再起させ、操縦性の向上を狙って1926年式用の広いリアアクスルを装備。ホイールも、オリジナルのスポークからワイヤー・タイプへ交換している。
この続きは後編にて。