ヴォグゾールMタイプとサンビーム14/40 100年前のファミリーサルーン 後編
公開 : 2022.01.02 20:25 更新 : 2022.08.08 07:17
70km/h以上での巡航も問題ない
サンビームとは異なり、アクセルペダルは中央。発進前に、ペダルの位置を確認して、少し集中する必要がある。エンジンの始動はイグニッションをオンにして、ボタンを押すだけ。エグゾーストから威勢のいい燃焼音を放って目覚めた。
戦前のクルマに共通するが、操作系は軽く、とてもデリケート。シフトレバーは静かに、正しい位置へ倒す必要がある。ギアとエンジンの回転数を合わせるために、変速の合間にはゆっくりとダブルクラッチを踏む必要がある。
決してスポーティといえるクルマではないが、ヴォグゾールのステアリング・レシオはクイック。この時代のクルマとしては小さいステアリングホイールが、一層そう感じさせる。低速域では筋力が求められるが、25km/hを超えてくると軽くなる。
ビンテージもののヴォグゾールは、ブレーキが効かないことで有名だったりする。最初の減速時は心配したが、杞憂だった。足で踏むブレーキペダルは緊急用。ハンドブレーキで通常は減速させるのだが、特に不安にさせることもなく制動力が立ち上がった。
戦前の優れたモデルとして、Mタイプは70km/h以上での巡航も問題ない。とても機敏に回頭する。路面が乱れていると、ショックアブソーバーのないリアアクスルが少し暴れるけれど。
サンビームへ乗り換える。第一印象は、よりシッカリした印象だった。操縦系の重み付けも、路面に空いた穴の処理などでも、落ち着きがある。
より安心して運転できるサンビーム
14/40のステアリングホイールは、Mタイプよりはるかに大きい。速度域を問わずステアリングが重いため、ありがたい大きさといえる。
エンジンの回転数を上げてシフトアップ。ヴォグゾールより変速しやすい。トップのレシオは高いもののギア比の差が大きく、2速で充分に回転数を高める必要がある。
サンビームはエグゾーストノートも控えめで、加速も穏やか。全体のゆったりした質感と相まって、穏やかに巡航するのに素晴らしい。車内はフロントシート側がワイドで、運転席と助手席との間隔にもゆとりがある。
ホイールベースはヴォグゾールより長く、ハートフォード社製のダンパーがリアアクスルに付いている。コーナーを曲がっても、落ち着きを失いにくい。
当初から標準装備されていた四輪ブレーキは、制動力が漸進的に立ち上がり強力。ペダル配置も現代のクルマに共通しているから、筆者はヴォグゾールより安心して運転することができた。
今から100年ほど前に誕生した、英国の上級ブランドによるダウンサイジング・モデル。当時のドライバーにとって、充分といえる内容を備えていたことを、改めて確認することができた。
1920年代の英国で施行された税制に対応するため、両社に迫られた新モデル開発。革新的といえる技術を、短期間で創出することにもつながった。
その結果誕生した、ヴォグゾール14HP Mタイプとサンビーム14/40。優れた選択肢としてどちらを選ぶべきか、その頃の多くのドライバーを悩ませたことだろう。