ポルシェタイカン:マット・プライアーからジェームズ・ディスデイルへ

今回の8台に、911が1台も入っていなかったことは驚きだ。どうやらみんな、誰かがGT3を選ぶと思って遠慮したらしい。しかし、タイカン4Sが仲間入りしたことには、誰もが当然だという顔をしていた。ロードテストでの満点評価以上に、このクルマを選んだことを正当化する理由はいらないし、プライアーの根拠はじつに簡潔だった。

「クルマもドライビングも好きなディスデイルにはポルシェ。そして、家族持ちで郊外に住んでいるから、ファミリーで使えるクルマ」。そしてもうひとつ。「ザ・ガーディアンを購読しているから、電動車」ということだ。

ロードテストで満点を叩き出したタイカンは、今年の総括に欠かせないクルマだ。ランチミーティングでも、話題になることは多かった。
ロードテストで満点を叩き出したタイカンは、今年の総括に欠かせないクルマだ。ランチミーティングでも、話題になることは多かった。    LUC LACEY

予想通り、その反応はじつに好意的なものだった。ランチタイムの会話でも、タイカンへの称賛に多くの時間が費やされた。「まさしくポルシェの走りなんだけど、間違いなくEVなんだよ」と切り出したのはディスデイルだ。「ポルシェに共通のダイレクトさやコントロール性と、ソフトさや快適さを兼ね備えている。おまけに、とんでもなく速いんだ」。

キングスレー・カーズULEZリボーンレンジローバー・クラシック:マット・ソーンダースからマット・プライアーへ

エントリー資格の基準を広げるにもほどがある、とは思うが、不平の声を上げるテスターはひとりもいなかった。オックスフォードシャーに本拠地があるキングスレー・カーズは、長年にわたりクラシック・レンジローバーに最高レベルのレストアを施し、世界の隅々にまで送り届けてきた。

しかし、ロンドンの超低排出ガスゾーン(ULEZ)規制で、これまでとは違う存在意義が生まれた。1981年以前に生産されたクルマは、基本構造を維持していればULEZ課税の対象外となるクラシックカーとして扱われるのだ。

みんなが自分へのプレゼントであってほしいと願った初代レンジは、マットからマットへのプレゼント。はたして、試乗のチャンスをもらったほうのマットは、自分のディフェンダーをこれに買い換えるのだろうか。
みんなが自分へのプレゼントであってほしいと願った初代レンジは、マットからマットへのプレゼント。はたして、試乗のチャンスをもらったほうのマットは、自分のディフェンダーをこれに買い換えるのだろうか。    LUC LACEY

触媒なしで4.6Lもの排気量があるV8を積んでいては、とてもじゃないがエコではない。しかも、レストア費用はベース車の価格抜きで12万5000ポンド(約1750万円)。1日あたり1750円が免除されるとしても、安い金額ではない。

「マットはランドローバー・ディフェンダーを持っているけど、ULEZ対応車への買い替えを検討しているのは知っていたんだ。だったら、これならパーフェクトだろ」とは、もうひとりのマットの弁だ。「もちろん、自分が乗りたいクルマでもあるんだけどね」。

まったくもって異議はない。このキングスレーの目を見張るような存在感、そしてエンジンの唸りは、テスター陣の間にキーの争奪戦を勃発させ、誰もが我先にその決して現代的ではないのに魅力的なドライビングを味わおうとした。こんなプレゼントを贈られる幸せ者はいったいぜんたい誰なのか、発表まで、空気は張りつめていた。

「よっしゃ!」と拳を突き上げたのはプライアーだった。「少量生産車は好きだし、V8もだし、出来のいいレストモッドも大好きだよ。マットがどうして、このクルマがわたし向きだと考えたのかはよくわかる。まったく的を射ているよ。たとえ、古いシガーみたいなクルマだとしてもね」。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マイク・ダフ

    Mike Duff

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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