水素エネルギーも忘れないで トヨタ・ミライ、走るとどうなの?
公開 : 2022.01.03 20:25 更新 : 2022.11.01 08:41
EVシフトが叫ばれる今、FCV(燃料電池車)の可能性も忘れてはいけません。都内では意外に見かける2代目ミライ。試乗して、魅力を探りましょう。
充電スタンド以上に遅れる、水素インフラ
HV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)も随分と車種が増加してきた。
中でも二酸化炭素排出量規制の流れを背景に、EVの伸長が目覚ましい。技術要素も構成も比較的単純なので当然だろう。
逆に普及が遅れているのがFCV(燃料電池車)だ。2014年に量産FCVの先駆として先代のミライが登場したが、2代目となる新型が登場した今でも、クラリティFCが生産を終了するなどFCVは僅かである。
FCや水素タンクなどの技術的ハードルの高さもあるが、とくにインフラ問題は深刻であり、例えば比較的充実している東京都内でも22か所しかなく、営業時間も通常のGSより短い。
高速道路のPA/SAにはない。急速充電スタンドの普及はともかくとして、家庭でも充電が可能なEVのほうが現実的に映るのは当然である。
それでも新型ミライは魅力的なモデルである。
その理由の1つは、先代のFFから変更された駆動方式。駆動モーターを後車軸直前に置くことから厳密にはMRなのだが、クラウンの基本骨格をベースにしたプラットフォームを考慮するならFRと言ったほうが理解しやすいだろう。
FCユニットやPCUなど電力系、動力系、水素タンクも一新され、同車名のFCVという共通点はあるもののハードウェア面ではまったく新しいクルマに生まれ変わった。
それらは実用性能だけでなく、ミライの走りのステータスを確実に高めていた。
どんな感じ? 進化する量産FCV
ミライのFCVシステムは、発電機をFC(燃料電池)に代えたシリーズ式ハイブリッドとすれば理解しやすい。
こういった基本構成はFCV開発実験車のトヨタFCHVから採用され、タイムラグがほとんどない加速反応のよさや自在に設定できる加減速コントロール性など、動力性能面のポテンシャルの高さはEVと同等である。
先代と比較すると出力当たり負担重量は少なく、トルク当たり負担重量は増加。
タイヤ外径も含めた総減速比が低下しているので、回して加速を稼ぐタイプに思えるが、試乗した印象は違っていた。
高速加速は伸びやかになった。スペックから想像したとおりだが、低回転域が痩せたわけではない。
低回転域の力感も向上している。もっとも、いきなり全開の猛ダッシュが利くという意味ではない。
心地よさ そのワケは?
後輪駆動への変更がもたらした微妙なトルク変動の少なさも良質なパワーフィールの一助となっているのだろうが、アクセル操作に対する加減速の追従感や、加速時に必要とされる踏み込み量の少なさ、それらが生み出すゆとりが心地いいのだ。
踏み込み直後の反応と加速の立ち上がり方から目標速度への到達時間を予測し、踏み込み量の調節を行う。
程よい反応・特性のお陰で、アクセル操作は無意識下のフィードバックループの処理をしているような感じ。しかも、一般的な運転パターンでは踏み込み量と加速反応、目標速度への到達時間の速度による変化が少ない。
モーターのトルク特性を考慮すれば、それが制御プログラムによってもたらされたのは容易に理解できる。
重要なのはその「運転特性」の味付け。
悠々としているが鈍重ではなく、力強いが乱暴ではない。洗練された味わいと車格感が高水準で両立されていた。
試乗車の車重は1920kg。クラウンのV6ハイブリッド(3.5L)車より50kgくらい重い見当。
3%弱の重量増がフットワークに与える影響は少ない。しかし、ハンドリングも乗り心地も明らかにアップグレードしている。