水素エネルギーも忘れないで トヨタ・ミライ、走るとどうなの?

公開 : 2022.01.03 20:25  更新 : 2022.11.01 08:41

乗り心地/静粛性/ハンドリング

日常域でのミライの乗り心地は、スポーティセダンと評するほど硬くはないが、日常域でのストロークは引き締められている。

ただし、段差で跳ね上げられるような突っ張った印象はない。

トヨタ・ミライG Aパッケージの後席内装(内装色:ホワイト&ダークブラウン)
トヨタ・ミライG Aパッケージの後席内装(内装色:ホワイト&ダークブラウン)    神村聖

短いストロークで衝撃を的確に吸収。車軸周りの揺動感も少ない。

重量に負けて揺れ残ったりせず、しかも重量感のあるストローク感が質の高い乗り心地を生み出していた。

加えてFCVならではの静粛性だ。急加速では大量の空気をFCに送り込むが、その状況でもブロアーや送気の騒音はほとんどしない。

PCUなどの電気系のノイズも少ない。

相対的にロードノイズや車外の騒音が目立ってしまうが、際立つ静粛性もあってレクサス車も含めたトヨタ系セダンでも、快適性は最高水準にある。

全長5m/重さ2トン級 ハンドリングは?

ハンドリングでは、ロールを利して荷重移動を穏やかにしつつ前後の荷重変動を抑え、操舵に過不足ないラインコントロール性を維持。

前後輪の荷重配分をほぼ50:50としながら、切れ味を抑えて減速回頭から定常円、加速と変化する状況でグリップバランスの安定を図っているのが印象的。

タイトターンでも高速コーナーでもハンドリング特性の変化が少ないので馴染みやすく安心感も高い。もう少し違った言い方をするなら、車体サイズ・重量を意識させない収まりのいい操縦感覚である。

目の前にあるハードル

クルマ単体の評価なら、700~800万円の価格帯のプレミアムセダンとして最も魅力的モデルである。

ADASは最新仕様のレベル2(試乗車はGグレード。上位のZにはアドバンスト・ドライブも設定)。快適性はセダン最上級クラスと同等以上。エコプレミアムを省いたとしても、コスパはかなりの優等生である。

トヨタ・ミライG Aパッケージの前席内装(内装色:ホワイト&ダークブラウン)
トヨタ・ミライG Aパッケージの前席内装(内装色:ホワイト&ダークブラウン)    神村聖

ちなみに現在の水素ステーションの価格で実用走行燃費を計算すると15km/100円くらい。税制で優遇も含めてだが燃費も内燃機車に勝る。

しかし、実践の場で使うことを考えると、ハードルが途端に高くなるのは冒頭で述べたとおり。相当な安全率を取っているのか、水素タンクの耐用年数が15年なのも難点である。

ならばFCVの未来が暗いかと言えばそうでもない。

大型のトラックやバス、さらには船舶航空機などバッテリーをエネルギー源とするには非効率な移動輸送機器の燃料として水素への期待は大きい。

運輸関連で水素が使用されるようになれば、水素インフラも拡充されるだろう。ただ、新型ミライのモデルライフが尽きる前に、実用に不便のないインフラが整う可能性は極めて低い。

オーナーになる大前提は生活圏に水素ステーションがあること。そして、多くの処理はナビ任せで済むものの水素充填を念頭に置いたドライブスケジュールやルートを組むのを面倒と思わないのも大切。この“ハードル”を乗り越えられるならミライはプレミアムセダン派へのオススメ筆頭である。

ミライG Aパッケージ スペック

価格:735万円
全長:4975mm
全幅:1885mm
全高:1470mm
最高速度:175km/h(トヨタ推定値)
0-100km/h加速:-
航続距離:約850km(水素有効搭載量を基に計算したWLTCモード)
燃費:152km/kg(WLTC燃料電池車)
CO2排出量:0g/km
車両重量:1920kg
パワートレイン:FCスタック+バッテリー+モーター
使用燃料:水素
最高出力(モーター):182ps/6940rpm
最大トルク(モーター):30.6kg-m/0-3267rpm
最小回転半径:5.8m
最低地上高:155mm
乗車定員:5名

トヨタ・ミライG Aパッケージ(プレシャスメタル)
トヨタ・ミライG Aパッケージ(プレシャスメタル)    神村聖

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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