ジールモーター・ファットトラックへ試乗 水陸両用の捜索救難車
公開 : 2022.01.18 08:25
岩が露出した山も幅の広い川も、向かうところ敵なしのモンスター。最新の捜索救難車へ、英国編集部が試乗しました。
手強い地形に屈しない捜索救難車
担当者は、しっかりドアを閉めてくれただろうか。そんな気持ちを抱きながら、堤防の斜面を下る。真っ赤に塗られた巨大なオフローダーが、湖面へ迫る。自らの操縦で、初めて湖をクルマで走るのだから、車内に水は侵入してこない方が良い。
遠くで白鳥がゆっくり泳いでいる。水面はドアの開口部の、かなり下の方にある。タイヤはボディサイドのデッキ下で回転している。そのまま進み、ゆっくり着水した。
完全に浮いた状態になり、お風呂に浮くアヒルのオモチャのように水面を漂う。一呼吸をおいて、タイヤへパワーを伝える。外輪船のようにタイヤが水をかき、前へ進み始める。
今回試乗したクルマは、ファットトラック。有能な捜索救難車だが、乗り方次第では、行く先を選ばない巨大な大人のおもちゃにもなりそうだ。捻りのないモデル名に思えるが、特にそこで目立つ必要はないのだろう。ライバルは少ない。
このファットトラックは、カナダ・ケベック州に拠点を置くジールモーター社が作ったもので、英国へも代理店を通じて輸入が始まっている。手強い地形が邪魔しても、目的地へ到達できることが目指されている。
画期的なマシンとして遭難者の探索や救助で、活躍する計画にあるという。風力発電を展開する企業や、消防庁なども関心を寄せているそうだ。
大きく見えるものの、全長はフォルクスワーゲン・ポロより短い。そのかわり、全高は3m近くある。タイヤは24インチの1640/640という、見たこともないサイズを履く。
キャタピラー社製ディーゼルターボで68ps
ファットトラックは、極端な環境下でも簡単に運転できるよう設計されている。クラッチはない。急な坂を半クラッチで長時間走行したら、すっかり焼けてしまうだろう。
エンジンはキャタピラー社製の2.2Lディーゼルターボで、最高出力68ps、最大トルク21.1kg-mを発揮する。トランスミッションは前進10段、後進10段で、それぞれハイギヤとローギヤが選べる。次期モデルでは4段にシンプル化されるという。
タイヤは、幅5cmほどのカーボンファイバー製ベルトで駆動される。パワーは頼りなく思えるが小回りは効き、その場でクルリと回転できる。
運転席はキャビンの最前方。中央のジョイスティックで操作する。沢山のボタンが並んだパネルがあり、スノーやマッド、トレイル、ウオーターという走行モードが選べる。極限状態に備えて、肉厚な手袋を着けていてもボタンが押せるよう配慮されている。
ボディスタイルには、乗員空間に6名が座れる8シーターのクルーキャブと、1tの荷台が付くピックアップ・トラックの2種類がある。車重はクルーキャブが2.7tで、ピックアップが2.3t。最高速度は陸上で40km/h。水上では4.8km/hが出せる。
特徴的な装備が、タイヤの空気圧を0.5psiから4psiまで調整できるエアコンプレッサー。走行中でも圧力を変えられ、地形に応じて自動的に調整される。
陸地に上がろうとすると、フロントタイヤが変形。コンプレッサーが稼働し、条件に応じた空気圧がタイヤへ与えられる。サイドウォールは分厚く、ホイールからねじれるように回転する。