フレイザー・ナッシュ-BMW 326 当時のベスト・サルーン 80年のサバイバー 前編

公開 : 2022.02.06 07:05  更新 : 2022.08.08 07:16

上質に回った小排気量の直列6気筒

当時のドイツ価格は、4ドアサルーンが5500ライヒスマルクで、カブリオレは7300ライヒスマルク。シャシー単体を、4450ライヒスマルクで購入することもできた。

航空機用エンジンの製造を起源とするBMWだけあって、小排気量の直列6気筒エンジンは洗練され、上質に回った。ロングストローク型のM78ユニットは、技術者のフリッツ・フィードラー氏が開発したものだ。

フレイザー・ナッシュ-BMW 326(1937〜1940年/英国仕様)
フレイザー・ナッシュ-BMW 326(1937〜1940年/英国仕様)

標準的な構造ながら設計に優れ、2077ccへ排気量が拡大されながら、1958年のBMW 501まで登用された名エンジンの1つ。326では319用のものに手を加え、1971ccが与えられていた。

クロスフローではないが、オーバーヘッドバルブと、サイドマウント・カムシャフトをチェーン駆動する構造を採用。シングルのソレックスキャブレターを載せ、バランスの取れたクランクシャフトを、4本のメインベアリングが支えている。

エンジンの下半分は、クロス・プッシュロッドでヘミヘッドの328用ユニットと共有していた。スポーツカー譲りの活発で賑やかな個性は、上級サルーンには適切ではなかったかもしれない。それでも車重1125kgの326を、充分なスピードに乗せた。

自然吸気の6気筒が生み出す最高出力は50psに過ぎないが、扱いやすく、信頼性も当時としては珍しいほど高い。高回転域でのパワフルさより、スムーズな粘り強さ側に設定が振られていた。

M78型エンジンは長時間の負荷にも耐えられ、アウトバーンを125km/hに迫る速度で巡航することも可能。加えて燃費も良好で、1度の満タンで480kmを走れた。

現代的な装備をいち早く導入

トランスミッションは4速MT。クラッチ操作なしで1速と2速を変速できる構造と、3速と4速には変速をしやすくするシンクロメッシュが搭載されてもいる。

何より運転好きのドイツ人を喜ばせたのが、ラック・アンド・ピニオン式の軽快なステアリングと、しなやかなサスペンション。当時は難しいと考えられていた、俊敏な身のこなしと上質な乗り心地とが両立できていた。

フレイザー・ナッシュ-BMW 326(1937〜1940年/英国仕様)
フレイザー・ナッシュ-BMW 326(1937〜1940年/英国仕様)

リア・サスペンションは、アクスル・ケースへ縦につながったトーションバーが特徴。フロントは先進的な独立懸架式で、横置きのリーフスプリングが、ロワー・コントロールアームの役割も兼務した。ショックアブソーバーも備わっていた。

ブレーキは、BMW初採用となったロッキード社製の油圧式ドラム。電気系統は、電圧6Vのボッシュ社製が組まれている。

車内にはステアリング・ロック機構に、セルフキャンセルされるウインカーレバー、角度調整できるフロントシートなど、今となっては当然といえる装備をいち早く導入。当時のクルマ好きを、強く惹きつけた要素の1つとなった。

かつて英国に存在したスポーツカー・メーカー、フレイザー・ナッシュ社の事業を引き継いだアルディントン家も、この326へ感銘を受けたのだろう。BMWを英国へ広めることになる。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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