【ロータス・エミーラ同乗試乗】前編 ロータスらしさの番人と同乗 年販目標4500台への秘策を訊く

公開 : 2022.01.22 20:25  更新 : 2022.02.02 00:15

先日、日本でも実車公開されたロータスのニューモデル、エミーラ。英国編集部のボス、クロプリーはへセル本社に赴き、開発の中心人物が操るプロトタイプに同乗。その走りとロータスの戦略について、助手席からリポートします。

走らせたのは「電気のクルマ」

「『電気のクルマ』で数ラップしてみましょう」と、ロータスエミーラ・プロトタイプのそばに立つギャバン・カーショウは言った。ここはロータスのすばらしい、新たなへセル本社敷地のはずれ。目の前には一台の奇妙なマシンがある。

シェイプは見慣れたもので、基本的には白いボディなのだが、ランダムに色を散らした擬装が施されている。まるで、走っているところにペイント弾の一斉射を浴びたようだ。

へセルのテストコースで、ロータスでも腕利きのドライバーと同乗試乗。学ぶことは多い。
へセルのテストコースで、ロータスでも腕利きのドライバーと同乗試乗。学ぶことは多い。    Max Edleston

電気の、という言葉には意表を突かれた。エミーラのパブリシティはいずれを取っても、ロータスが2020年代半ばにまったく新しい純電動スポーツカーを投入するべく準備中であることを伝えているが、このエミーラは内燃機関の栄光を祝福する、まさにへセル最後のモデルだ。ハイブリッドですらない。

にもかかわらず、突如耳にしたのが、電気の、という言葉である。しかしながらその説明は、聞いてみれば驚くようなものではなかった。取材時、ロータスはエミーラのプロトタイプを35台ほど用意し、世界中で最終テストを行っている最中だった。これを経て、春には量産車が登場することになる。今回試乗するのは、その中でも電装系チェックのために用いられているクルマだ。電気というのは、という意味だったのだ。

へセルでも抜群のドライバーで、ロータスらしさの番人ともいうべきカーショウ。正式な肩書きをヴィークル・アトリビューツおよびプロダクト・インテグリティ担当ディレクターという彼は、このテストカーを1時間ばかり持ち出して、へセルのテストコースでその走りっぷりを見せてくれた。試乗するだけなら疑問も湧かずただそれで終わりだが、カーショウといっしょだといろいろと勉強になるはずだ。

同乗走行でも飛ばすのは、コリン・チャップマン以来、ロータスの伝統となっている。チャップマンの後を受けて社長となったマイク・キンバリーしかり、ロジャー・ベイカーしかり、アリスター・マックイーンしかり、ジョン・マイルズしかり。そのほかにも多くのエンジニア兼ドライバーが、ロータスがノーフォークに拠点を移した1966年以来、同じようにしてきた。

カーショウは、まさしくそうした顔ぶれへ加わるにふさわしい人物だ。モータースポーツで成功した父親に育てられ、その後はマックイーンやマイルズ、ベッカーらに師事したのである。

年販4500台を目指すエミーラ

サーキットへと走り出すための準備をしながら、彼が語ったエミーラの定義は、これ以上ないほど適切なものだった。これまで年間の総生産台数が2000台にも満たなかったロータスが、この新型車1車種を毎年4500台売ろうとしているうえで、なにが重要かという話だ。

「より多くの顧客をよそから奪うには、いまどきのオーナーたちが望むものを提供しなければなりません。使い勝手、耐久性、積載性、コネクテッド機能を持つディスプレイや最新のインフォテインメントといったもろもろをです。しかし同時に、ロータスの運動性能は維持するのが絶対条件です。そこは譲れません。間違いなく、クルマとの一体感を感じられるでしょうし、クルマはドライバーに応えてくれます。アグレッシブさや尖ったところは、決して感じないはずです」。

カーショウに言わせれば、エミーラはすべてのロータスに共通するサーキットでの速さや繊細さを損なうことなく、日常使いできる素質も見せてくれるクルマだ。
カーショウに言わせれば、エミーラはすべてのロータスに共通するサーキットでの速さや繊細さを損なうことなく、日常使いできる素質も見せてくれるクルマだ。    Max Edleston

では、エミーラの購買層とは、どのようなひとびとなのだろうか。まずはもちろん、昔ながらのロータス好きが考えられるが、このニューモデルの販売目標を考えれば、守備範囲をもっと広げることが必要だ。カーショウが狙いをつけるのは、どちらも純粋なドライビングの楽しみを探し求めているが、まったく共通点のないふたつのタイプだ。

いっぽうは、これまでにスーパーカーやアグレッシブなスポーツカーを所有した経験を持ち、しかしもはやドラマティックさや所有する上での困難はもういらない、というタイプだ。そしてもういっぽうは、この手のクルマを買うのが初めてで、走りを楽しむためでもつらい思いをするのはまっぴらごめん、というタイプである。

カーショウに言わせれば、エミーラはすべてのロータスに共通するサーキットでの速さや繊細さを損なうことなく、日常使いできる素質も見せてくれるクルマだ、ということになる。

へセルのテストコースは、長年の間に変化を重ねてきた。もとは使わなくなった空軍基地だったが、1966年の開設以来、少なくとも6回は姿を変えている。現在は、いくつかのサーキットに分かれている。

われわれが走ったコースは、サザンループと名付けられている。数々のコーナーには、チャップマンをはじめセナ、ヒル、アンドレッティといった錚々たる面々の名が与えられているが、なぜかクラークの名はなかった。恐ろしく速度域の高い右コーナーのウインドソックを抜けると、見えてくるのはマンセルと呼ばれるメインストレート。本気で走れば、250km/hを超えるスピードに達する。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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