「電池は高価で無駄」 英国人起業家の理念は届く? 小さな燃料電池車にかけた自動車の未来

公開 : 2022.01.24 18:45

今夏には20台の試験走行も予定

ラーサと同じ理念で開発された新型車が、同様のマイクロファクトリーで「必要なときに必要なだけ」作られると、スパワーズ氏は期待している。同社は4ドア車とバンの製造も計画中だ。しかし、まずはラーサを完成させなければならない。

最初のプロトタイプ(アルファ)はベータに切り替わり、この夏、20台による試験走行が行われる。冷却効果を高めるためにノーズを再設計し、フロントとリアのサブフレームをアルミニウムからカーボンファイバーに変更するなどしたが、見た目はあまり変わっていない。

リバーシンプル・ラーサ
リバーシンプル・ラーサ    リバーシンプル

「試験走行に耐えうるだけの信頼性とメンテナンス性を確保することに集中しました。アルファはそうではありませんでした」

彼はまた、材料費(すべての部品価格を合計した単価)を下げることにも取り組んでいる。現在、1台あたり17万ポンド(約2600万円)かかっているが、部品をまとめて買うようにすれば、「5万ポンド(約770万円)をはるかに下回る」ようになるという。

バッテリーは高価で無駄なもの

ラーサは、ゼロ・エミッション車はどうあるべきかという知的な研究でもある。部品は軽くて長持ちするものが選ばれている。ラーサを「所有」し続けるのはリバーシンプル社であり、最終的にはリサイクルやリユースができるようなクルマ、つまり「使い捨て」と逆の方向を目指しているのだ。

スパワーズ氏が不満に思っていることの1つに、年式に関係する英国のナンバープレート制度があり、「自動車市場に陳腐化させる仕組み」と批判している。例えば、20年前のアウディA2 3Lは実験的なディーゼル・エコカーであり、「3L」という数字は、リッター当たり100kmという燃費の良さを表している(あまり売れなかったが)。

リバーシンプル・ラーサ
リバーシンプル・ラーサ    リバーシンプル

また、スパワーズ氏によるとバッテリーは高価で無駄なものだという。

「航続距離の長いクルマのバッテリーを作るためのエネルギー強度は、完全にナンセンスです」

多くの自動車メーカーは、ホンダやメルセデスが公言しているように、燃料電池から手を引くどころか最終的にはEVの代替となることを視野に入れて、密かに投資を続けているのだと彼は考えている。

「これ(EV)はその場しのぎで、5年後には別のものを販売しますよ、などと言っていたら、すべての人にバッテリーカーを売ることはできません」

問題は、スパワーズ氏の理念を理解する顧客が十分にいるかどうかだ。ラーサは、最新の安全性と快適性に欠けるところが多そうだ。例えば、アダプティブ・クルーズ・コントロールを搭載するようなことはしないという。「それよりもはるかに大きな問題があるのです」と彼は言う。彼の言葉は、人々の耳に届くのだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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