ベントレーMk VIとロールス・ロイス・トゥエンティ インドの旧車コレクター 前編

公開 : 2022.02.12 07:05

マハラジャが所有していたクラシックを集める、インド人コレクター。英国編集部が、彼の愛車の一部をご紹介します。

マハラジャが買い集めたロールス・ロイス

インド人の自動車に対する思い入れは、実は相当に深い。同時に、豪華さに対する欲求も。この嗜好は、20世紀半ばまで続いた王族時代にさかのぼることができる。

インド亜大陸で大きな権力を握っていた王族、マハラジャは、西欧諸国の高級自動車に、自らの富を惜しみなく注いだ。なかでも特別扱いを受けていたのが、ロールス・ロイス。極めて豪奢な、狩猟目的のクルマとして特注されることも多かった。

ヨハン・プーナワラ氏のクラシックカー・コレクション
ヨハン・プーナワラ氏のクラシックカー・コレクション

インドが英国から独立したのは1947年。その時点で、インドは600を超える小さな王国で構成されていた。その殆どが、裕福なマハラジャが支配していたという。しかし独立後は国家統一が図られ、衰退していった。

1970年代にはマハラジャは地位や財産を失い、王家が住まった宮殿は廃墟と化した。民衆から徴収した富で集めた高級品も放棄された。それらは外国人コレクターが拾い集め、海外で販売された。ロールス・ロイスも。

今回ご紹介するカーコレクター、ヨハン・プーナワラ氏は、マハラジャの家系に育ったわけではない。一般市民として生まれるが、種馬飼育や技術開発の事業で成功。医療分野にも進出し、上流階級の仲間入りを果たした。

COVID-19のパンデミックでは、数百万本ものワクチンを提供。国民をウイルスの驚異から守っもている。

プーナワラは、インドに残された遺産の保護にも取り組んでいる。芸術や文化だけでなく、英国占領時代にマハラジャが買い集めた、クラシックカーも数多く救い出している。

クラシックのほかに2台のフェラーリ

彼がクラシックカーへ興味を抱いたきっかけは、1931年式シボレーだったという。父が乗っていたクルマで、家族が経営する農場での思い出が詰まっていた。

コレクションを覗くと、インド人が羨望したロールス・ロイスへの思いが見て取れる。ロンドンのクラシックカー・ディーラーも驚くようなリムジンが、希少なフェラーリと一緒に堂々と並んでいる。

ヨハン・プーナワラ氏のクラシックカー・コレクション
ヨハン・プーナワラ氏のクラシックカー・コレクション

ちなみにフェラーリの方は、458 スペチアーレ・アペルタと488 ピスタ・スパイダー。プーナワラは、モダンなクルマにも興味があるようだ。

「このほかにも、ロールス・ロイスのドロップヘッド・クーペが2台と、1台のセンテナリー・エディション、2台のファントム・リムジンも所有しています。その1台は、27台しか作られなかったサファイア・エディションです」

しかし今回注目すべきは、インドのマハラジャにゆかりを持つクラシックなロールス・ロイスとベントレー。近年再び注目度が高まっている。

「1950年代半ばから、マハラジャが所有していたクルマは海外へ流出。多くが英国を含む欧州や北米へ売られていきました。1970年代に、インド政府がビンテージ製品の輸出を禁止するまで」。プーナワラが説明する。

「輸出に規制が掛かったことは、良かったですね。クルマの一部は残りましたから。ですが、古いクルマをインドに輸入することもできませんでしたが」

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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