ポルシェ718ボクスター GTS(最終回) 長期テスト 最高水準のドライバーズカー
公開 : 2022.02.06 09:45
718ボクスター GTSで悩ましい選択
長期テストを通じて、718ボクスター GTSで最も悩ましい選択が、トランスミッションだということが明らかになった。マニュアルにするか、デュアルクラッチ・オートマティックにするか。
6速MTは、機械的にギアが噛み合ったような感触が薄いものの、シフトレバーは滑らかに動く。しかし特に2速目のギア比がロングで、エンジンの回転域をすべて味合うことが難しい。
クラッチペダルのストロークも、筆者の理想よりやや長い。発進時や加速時は、エンジンとの歩調を合わせやすい。しかし、混雑した市街地や渋滞に巻き込まれた時は、左足の連続した屈伸運動が楽ではない。
筆者が自分の理想の718ボクスター GTSを組み上げるなら、7速PDKを選ぶべきか相当に悩みそうだ。高い技術力で開発され、極めてシャープに変速をこなし、洗練されてもいる。
エンジンもレッドラインまで、充分に回しきれる。変速の手間を忘れて、遠い目的地まで高速移動も叶えてくれる。
だが散々迷って、6速MTを選ぶかもしれない。滑らかな変速から、大きな充足感を得られる。純EVの時代が来ると、シングルスピードATの一択になるだろう。新車でMTに乗るなら今しかない。
理想的な道路環境でのGTSの素晴らしさ
718ボクスターには、911 GT3のフレーバーを注ぎ込んだボクスター・スパイダーという、ドライビング体験のリーダーがいる。位置付けとしては、その次が、このGTS 4.0ということになる。
引き出しやすい太いトルクと軽い車重を備えた2.5Lターボ・フラット4の方が、甘美なハンドリングを楽しめるという評価もある。筆者も、その意見は理解できる。だが、理想的な道路環境におけるGTSの素晴らしさは、それを超越している。
サスペンションは標準のままでもタイトで、2段階のPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメント)をハード側に設定することは殆どなかった。ダイナミック・エンジンマウントをスポーツ・モードにすることはあったが。
見事なバランスと前後の重量配分が与えられたシャシーは、ボディロールが基本的に小さい。フロント・サスペンションはダブルウイッシュボーンではないが、路面へ流暢に追従していくような、しなやかさも備えている。
コーナリングラインの調整を、アクセルペダルの角度で自在に行える身のこなしも、突出した強み。サーキットやアルプス山脈では、右足の力加減で漸進的に旋回していく挙動を、存分に味わうことができた。
同時にステアリング・フィールも特筆モノ。操縦性も乗り心地も、最高水準にあるドライバーズカーだといって良い。2.5Lターボより重くパワフルなGTS 4.0も、718ボクスター本来のストロングポイントをまったく弱めていない。