なぜ水素は「未来の燃料」ではなくなったのか? 脱炭素目指す自動車メーカーが手を引く理由

公開 : 2022.01.29 06:05  更新 : 2022.11.01 08:41

水素は「未来のチーズ」?

水素燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気を作り、その副産物として水だけが発生する。しかし、水素をつくるには多くの電力が必要だ。その電力は風力などの再生可能エネルギーであることが理想的だが、そうでなければFCEVの意味がない。

BEVが主張するメリットは、クリーンな電気をそのままバッテリーに蓄えることで、多くのエネルギーを節約できるというもの。これに対するFCEVの反論は、再生可能エネルギーが多く発電されているとき(例えば、風の強い夜など)には、それを蓄電するバッテリーが足りなくなる可能性があるというものだ。

ヒュンダイが開発したFCEV、ネッソ
ヒュンダイが開発したFCEV、ネッソ

ヒュンダイの燃料電池事業部を率いるキム・セフン氏が、昨年9月の講演で「水素はチーズと同じような役割を果たすだろう」と主張したことは印象的だった。遊牧民が余った牛乳をチーズにして保存し、冬に使用したことを思い起こさせる例えである。彼は次のように述べている。

「水素は、風力や太陽光で発電した余剰電力を、大量に貯蔵できる(エネルギー密度の高い)水素に変換することができます。電気は牛乳のようなもので、水素はチーズのようなものです」

独自の観点から商業化図る企業も

FCEVの販売が進まないのは、メーカーが間違ったモデルを売ろうとしているからだと、英国の水素自動車メーカーであるリバーシンプルの創業者ヒューゴ・スパワーズ氏は考えている。

トヨタやヒュンダイは、水素プログラムを推進していません。インフラがないからです。ミライのような都市間リムジンを作る場合、確固たる市場を形成するために300の充填ステーションが必要です。一方、ローカルなクルマを作る場合は、充填ステーションが1つあれば十分です」

リバーシンプルが開発中のラーサ
リバーシンプルが開発中のラーサ

リバーシンプルが開発しているFCEVのラーサは、2024年の生産開始を予定している。2人乗りのコンパクトなクーペスタイルで、航続距離は480kmと予想されているが、長距離クルーザーではない。ラーサは、顧客が住む特定の地域の水素ステーションで毎週充填することを念頭に設計されている。

同社は英国の各地方自治体、独立系燃料小売業者、水素ハブ開発業者であるエレメント2と協議し、水素ステーション設置に最適な場所、つまりラーサを最初に販売する場所を探している。「当社は、水素供給業者の強力なビジネスケースを作るために、8から10の発売場所を特定しようとしています」とスパワーズ氏。

「その市場に100台のクルマを投入すれば、100人の顧客を虜にすることができます」と自信を見せる彼は、この1か所のステーションが将来的に水素バンやバス、さらにはトラックを地元に引き寄せると期待している。

「これらの企業の需要を集中させることが、ビジネスケースを構築する鍵になります。水素自動車の早い普及を期待して、誰かが全国的なインフラを整備してくれると考えるのは、まったくの妄想です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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