フィアット500 詳細データテスト 十分以上の動力性能とハンドリング 航続距離と快適性はほどほど
公開 : 2022.02.05 20:25 更新 : 2022.03.15 04:02
意匠と技術 ★★★★★★★★★☆
紛らわしいネーミングが、この500が完全新設計だという事実をわかりにくくしている。既存の500を手直ししたEV版なのだとお思いの読者もいるかと思うが、新旧2台を並べれば、そうではないことが明確になる。新型のサイズもプロポーションも、まったくもって違うのだ。新設計以外の何ものでもないことがよくわかる。
いまやフィアットが属するステランティスは、将来的にこのグループが販売するほとんどのEVを、旧グループPSAが開発したCMPプラットフォームをベースにするという。これは、ご存知のようにガソリン/ディーゼルのエンジン単体からハイブリッド、フルEVまで対応できる基本設計となっている。ただし、すべてのEVがそうなるというわけではない。
ましてや、新型500のプロジェクトは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とPSAの合併以前にスタートしている。そのため、専用設計のスケートボードスタイルの専用設計プラットフォームが用いられている。これをベースにしたほかのEVも登場するのか、それとも今後はPSA系のテクノロジーに統合されるのか、現時点では不明だ。
機械的にみれば、そのレシピは比較的無難だ。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームと、コンパクトなFF車のセオリー通り。スタイリングと同じくRRレイアウトにすれば、量販EVで主流になりつつあるフォーマットともなったが、それは見送られた。とはいえ、こうしたパワーの低いコンパクトカーでは、RRによるトラクションのメリットが限定的で、しかもただでさえ小さい荷室がさらに削られてしまう。
フロア下の駆動用バッテリーは2種類で、主流はテスト車両にも積まれている42.0kWh版。実用容量は37.3kWhで、最高出力は119ps、航続距離はWLTP値で320km。下位モデルではグロス23.8kWh/ネット21.3kWhとなり、95ps/190kmだ。
いずれもクラストップレベルとはいかない数字だが、ここまで小さなクルマとしては悪くない。そう、このEVの500は非常にコンパクトなのだ。内燃エンジンの500よりは61mm長く、56mm広く、39mm高いが、ミラーを含めた全幅はほとんど同じ。クルマが混み合った市街地でも、道が狭く入り組んだ古い街でも、じつに使いやすいサイズだ。
もしかしたらフィアット500は、技術面のスペック以上にスタイリングが重視されるクルマなのかもしれないが、その点も抜かりない。ゴテゴテしてもいないが、物足りなさやつまらなさは微塵もない。手がけたクラウス・ブッセは、マセラティのデザイン担当副社長で、オートカーアワードでは2021年のデザインヒーロー賞を授与している。
ガソリン車の500と同様、通常のハッチバックと、ファブリックの開閉式ルーフを装備する500Cをラインナップ。左ハンドル車には、3+1レイアウトのキャビンと後席乗降性を高める後ヒンジの追加ドアを備える仕様も用意されるが、右ハンドル車へは今のところ設定されていない。