ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 後編

公開 : 2022.02.19 07:06

3500rpm以上を積極的に使いたくなる

4速MTのギアをトップに入れて、40km/h程度で走ることも難しくない。でも、そんなことをしたいとは思わないはず。

トランスミッションのギア比が適正で、加速は至ってスリリング。低く怠惰に回りそうなイメージのV8エンジンだが、郊外の道を駆け始めれば、3500rpm以上の領域を積極的に使いたくなる。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

回転数の上昇とともに、パワーも即座に引き出される。オリンピック選手のように、運動能力は極めて高い。ケン・マイルズ氏やダン・ガーニー氏など、過去にACコブラで駆けたレーシングドライバーの姿が脳裏をよぎる。

コーナーを攻め込むと、耐久レースのレジェンドに抱いた期待は、少々裏切られる。新車時の試乗レポートでも触れられているが、アクセルペダルでテールの動きはコントロールできる。しかし神経質な挙動で、ヒヤリとする瞬間がある。緊張は緩められない。

巨大なトランスミッション・トンネルがコクピットに突き出し、クラッチペダルは踏みにくい。それでも、ボルグワーナー社製のT-10トランスミッションのレバー・ストロークは短く、変速感もダイレクト。

ラック&ピニオン式のステアリングは、重み付けが丁度いい。ビッグブロックより軽量なスモールブロック・エンジンのおかげだろう。

初期の弱点を最高の組み合わせで克服

リーフスプリングを積んだMk IIまでのACコブラは、同時期の欧州製スポーツカーと比較すると、速いとはいえ少々上品さに欠けていた。ハンマーでビスを打ち込むような勢いだった。

だがコイルスプリング・サスペンションを備える289スポーツは、1960年代半ばに製造されたロードスターに相応しい、軽快さと鋭さがある。初期のコブラが備えていた個性の弱点を、最高の組み合わせで克服している。

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)

モンスター級の427ユニットのパワーは備わらない。だが289スポーツは軽くバランスに優れ、扱いやすい。腕の筋肉をパンプアップさせながら、ラインに押し戻す必要もない。

確かに、普段使いするクルマにはならないだろう。それでも、オリジナル最後のスモールブロック・コブラが備える操縦のしやすさは、間違いなく今でも輝いている。ともに過ごす時間が長くなるほど、大蛇とも一層親しく付き合えることだろう。

協力:クラシック・モーター・ハブ

AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)のスペック

英国価格:2951ポンド(新車時)/50万ポンド(約7750万円)以下(現在)
生産台数:27台
全長:4057mm
全幅:1651mm
全高:1238mm
最高速度:217km/h
0-97km/h加速:5.6秒
燃費:6.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:950kg
パワートレイン:V型8気筒4727cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:284ps/6000rpm
最大トルク:43.0kg-m/3400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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