ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 後編
公開 : 2022.02.19 07:06
3500rpm以上を積極的に使いたくなる
4速MTのギアをトップに入れて、40km/h程度で走ることも難しくない。でも、そんなことをしたいとは思わないはず。
トランスミッションのギア比が適正で、加速は至ってスリリング。低く怠惰に回りそうなイメージのV8エンジンだが、郊外の道を駆け始めれば、3500rpm以上の領域を積極的に使いたくなる。
回転数の上昇とともに、パワーも即座に引き出される。オリンピック選手のように、運動能力は極めて高い。ケン・マイルズ氏やダン・ガーニー氏など、過去にACコブラで駆けたレーシングドライバーの姿が脳裏をよぎる。
コーナーを攻め込むと、耐久レースのレジェンドに抱いた期待は、少々裏切られる。新車時の試乗レポートでも触れられているが、アクセルペダルでテールの動きはコントロールできる。しかし神経質な挙動で、ヒヤリとする瞬間がある。緊張は緩められない。
巨大なトランスミッション・トンネルがコクピットに突き出し、クラッチペダルは踏みにくい。それでも、ボルグワーナー社製のT-10トランスミッションのレバー・ストロークは短く、変速感もダイレクト。
ラック&ピニオン式のステアリングは、重み付けが丁度いい。ビッグブロックより軽量なスモールブロック・エンジンのおかげだろう。
初期の弱点を最高の組み合わせで克服
リーフスプリングを積んだMk IIまでのACコブラは、同時期の欧州製スポーツカーと比較すると、速いとはいえ少々上品さに欠けていた。ハンマーでビスを打ち込むような勢いだった。
だがコイルスプリング・サスペンションを備える289スポーツは、1960年代半ばに製造されたロードスターに相応しい、軽快さと鋭さがある。初期のコブラが備えていた個性の弱点を、最高の組み合わせで克服している。
モンスター級の427ユニットのパワーは備わらない。だが289スポーツは軽くバランスに優れ、扱いやすい。腕の筋肉をパンプアップさせながら、ラインに押し戻す必要もない。
確かに、普段使いするクルマにはならないだろう。それでも、オリジナル最後のスモールブロック・コブラが備える操縦のしやすさは、間違いなく今でも輝いている。ともに過ごす時間が長くなるほど、大蛇とも一層親しく付き合えることだろう。
協力:クラシック・モーター・ハブ
AC 289スポーツ(1967〜1969年/英国仕様)のスペック
英国価格:2951ポンド(新車時)/50万ポンド(約7750万円)以下(現在)
生産台数:27台
全長:4057mm
全幅:1651mm
全高:1238mm
最高速度:217km/h
0-97km/h加速:5.6秒
燃費:6.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:950kg
パワートレイン:V型8気筒4727cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:284ps/6000rpm
最大トルク:43.0kg-m/3400rpm
ギアボックス:4速マニュアル