BMW i8 vs ポルシェ911 50thアニバーサリー・エディション

公開 : 2014.06.03 23:50  更新 : 2017.05.29 19:34

多くの読者が先日公開したBMW i8の試乗記事をご覧になったようだ。今回はそのBMW i8に対し、ポルシェ911を直接指名して比較試乗をしていくことにする。

カーボン・ファイバーによる構成、プラグイン・ハイブリット、数々のドライブ・モード、電気のみを利用した駆動源、ガソリン・エンジンと電気モーターを使用した4輪駆動、2つのギアボックス……など挙げてみればキリがないほど、このi8はこれまでのロード・カーと比べてみても大きくその方向性が異なる。これまでのBMWのエンブレムを持った車の中で最も高度な技術が盛り込まれていると言い換えることもできる。

対するポルシェの方はi8に比べるとむしろ古典的な車と言っていいが、そのルックスに惑わされないように注意しなければならない。というのも、今回借りだしてきた車は911が誕生して50周年を記念するモデルであるだけに各所にレトロなデザインが施されているからだ。ただし、蓋を開けてみれば躊躇なく現代的なi8と比較できるほどの実力を兼ね備えているのだから、さすがは911でる。この車のベースとなるのはカレラ4と同様のワイド・ボディを纏ったカレラSで、往年の911が履いていたフックス・ホイールを彷彿させる20インチ・ホイールが組み合わされる。

まずはi8のサイズから紹介しよう。全長4689mm×全幅1942mm×全高1293mmとなり、プロポーション自体はミド・エンジン・スポーツカーのようだではあるが、複雑な造形となめらかな美しいボディを一目見れば、それが”何だか違う”車であることは一目瞭然である。またこれは、単なるデザイン・アピールのためだけのものではなく、よりお手頃なBMW i3と共通する先進技術を代弁する形となっているのだ。

一方911の方はi8のそれよりも、全長は199mm短く、全幅も132mm狭い。更に全高が6mm高くなってはいるけれど、発売から2年が経過しているを感じさせず、見るものに歓びを与えるルックスであることに変わりない。

i8はアルミニウムよりも多くのCFRPを用いてボディを支えている。また先述したとおり、従来のガソリン・エンジンと一対の電気モーター両方からなるドライブ・トレインを採用している点が箱型のi3と異なるポイントである。

キャビン中央の下部に200kgのバッテリーを搭載しているが車重は1485kgにまで抑えられている。また、911はPDKのモデルで1430kgとなる。

i8に乗り込む際には、低いシザーズ・ドアの開口部と、分厚いカーボン・ファイバーのサイドシルとの間に体をねじ込むためにアクロバティックな大勢を要する。それ正反対なのが911で、一般的なクルマと同様にドアを開くことができ、大きく横方向にドアを開き、薄いシルを跨いで乗るだけなので日常の使用において苦労することはないだろう。

i8の深く彫り込まれたシートに腰をおろしてキャビンを見渡せば、エクステリア同様の未来的な世界観がふんだんに盛り込まれた、抑揚のあるダッシュ・ボードが視界にひろがる。911の方はといえば、i8のようなモダンな印象に欠けるものの、決して少なくない点数のスイッチ類を巧みに、そして整然と纏め上げられていることが一目で分かる。

両モデルともに4人乗りで後部座席は荷物置き程度の使用が適切だといえるが、i8はハッチ・バック式にテール・ゲートを開閉できるため、154ℓの荷室容量をもつ911に比べて19ℓ分優位に立つ結果となる。

i8の最高出力は362ps/5800rpm、最大トルクは58.1kg-m/3700rpmであり、エコ・プロ、コンフォート、スポーツの3つの走行モードを選択することが可能だ。また、バッテリーが満充電の場合にはE-モードを選択することもできる。

エコ・プロならびにコンフォート・モードは市街地や巡航時に力を発揮する。バッテリーが充分に充電された状態ならば、フロント・アクスル近くに位置する電気モーターのみを駆動源として走行することが可能だ。4800rpmにて、130psと25.4kg-mを発生させ、CO2の排出量は全くのゼロ。さらに129km/hまではモーターのみで走行することができる。

アクセルを深く踏み込めば、あるいバッテリーの充電が減ってしまえば、現行型のミニに採用されたものをチューンした、リアにマウントされる1.5ℓの3気筒エンジンも動き始める。このエンジンは231ps/5800rpmと32.6kg-m/3700rpmを6速ATを介してリア・タイヤへと動力を伝える。言うなれば、パート・タイム4WDだということになる。

そしてリアに設置された2番めのモーターが、上記のリア・エンジンとフロント・モーターを統合する役割となる。リアの3気筒エンジンは、立ち上がる際にほんの一瞬だけ息継ぎをするかのような感覚を与えるが、気になって仕方が無いほどのレベルではないのでご安心を。

エコ・プロならびにコンフォート・モードに切り替えている時には、ガソリン・エンジンと2つの電気バッテリーを平行して運転させるため力強さを感じられるが爆発的な加速かと問われれば、そうとは言いがたい。また、静止状態からアクセルを踏み込んだ場合は6気筒ターボ・エンジンのような加速をしはじめる。ただしあくまでもそれは、加速時のフィーリングで、実際には誤魔化しきれていない3気筒エンジンならではのコトコトと言う音がキャビンに届いてくる。

911のシャシーはBMWのように錯綜とした構造はしていないが、だからといって力強さに欠けるといった印象はない。自然吸気の3.8ℓ水平対向6気筒エンジンは、リア・アクスルの後方に位置し、公表値は最大出力である401psを7400rpmで発生させる。テスト車両は米国仕様のモデルで、パワー・キットの恩恵を受けて430psまで最高出力が引き上げられている。

トルクの数値だけを見ると911の最大トルクである44.9kg-m/5600rpmはi8のそれに比べて、約12kg-m小さい事に気づく。標準であれば7速のマニュアルを介して911のトルクはリア・タイヤに伝達されるが、テスト車両は7速のPDKデュアル・クラッチ・オートマティックが充てられているため、0km/h加速時も迅速かつ人間業では到底対抗し得ないようなシフト・チェンジを行いながらスムーズな加速をする。

第一印象では、i8は伝統的なBMWのスポーツカーとは一線を画した、全く違うドライビング感覚だと感じた。コントロールするたびに冷淡とさえも思え、電気モーターから発する作りこまれたサウンドは、機械的な別次元の優雅さを醸し出す。

電気モーターのみで発進させると、2速のオートマティック・ギアボックスを介して瞬時にガソリン・エンジンでは経験し得ない加速を始める。たとえ電気モーターのみでも、信号が青になったとたんに、完成度の高いホット・ハッチを引き離すことも可能だろう。

2速で曲がるようなタイトなコーナーが少ない環状線では、i8の動力性能を味わうことができるはずだ。ステアリングは精密で、ターン・インの反応も素早い。またボディの動きにぎこちなさがなく、コーナーの峰に向かって自然な横方向のGが感じられる。

モーターとエンジンの両方を作動させて4輪駆動で走行させれば、強烈な加速を始めブレーキの力も増す。ただしペダルのフィールは最良だとは言いがたいし、速度が乗ればフロントのオーバー・ハング表面がバタバタと音を立てるが、それ以外は至極まっとうにドライバーの要求に応えてくれる。

911の場合、ミドル・レンジの回転域では溢れんばかりのトルクを感じることは出来ない。それはコーナーから抜ける際の出だしでも同じことが言える。ただし、911はパワーが無いわけではなく実際に4000rpmよりも上の回転数では自然吸気エンジンからは並外れたパワーが発生する。ただその4000rpmに到達するまでの間にBMWは、そのモーターの駆動力で911突き放すことになるのだ。

0-100km/hに達するまでの公表値は、i8が4.4秒、911が4.5秒と0.1秒の差しか無いが、リニアリティに富んだモーターからのパワーの加速を味わえばi8の方が断然速く感じる。

i8はモダンなスポーツカー愛好家の物欲を刺激し続けることは、まず間違いないだろう。ただし、峠を走った際のエンターテイメント性を重要視する人達を唸らせる事は難しい。その主たる原因として、フロント・タイヤのグリップ不足が挙げられる。

i8は、フロント・タイヤのトレッドが180mm、リアが190mmしか無いにも関わらず20インチのホイールを履く。詳細なタイヤサイズはフロントが195/50-20インチ、リアが215/45-20インチとなる。限られた接地面では路面を上手く掴みきれないのは明白だ。その結果、2速コーナーにスロットルを踏み込みながら入り込めばアンダーステアが絶え間なく顔をのぞかせ、ワインディングではスタビリティ・コントロールが介入したことを示す黄色いインジケーターが常に点灯しっぱなしになるのだ。

対する911はコーナリングで不安を感じることは一切なくピュアな走りを約束する。優れたバランスの恩恵を受けて限界点に近いポイントでも有無を言わせない完成度を披露し、その結果i8のコーナリングでの立場を非常に危ういものにするのである。

911のステアリングは現在のスポーツカーに組み合わされる電気式のシステムの中でも最高だと言っていいだろう。i8の軽く、オーバー・サーボな感覚を与えるステアリングと比べると、その感覚は絶妙で比べ物にならないほど魅力的だ。

動力的な素晴らしさはそれだけではない。どの速度域でもボディ・コントロールのレベルは一枚上で、グリップも申し分ない。クイック・コーナーでも常に落ち着き払い、脱出時にテール・アウト姿勢に持ち込んだとしても電気アシストが適度に介入し、破綻する素振りを微塵も見せない。たとえ、i8にワイドでグリップの高いタイヤをオプション選択したとしても、911の完成度には及ばないだろう。

結論として、911の方が動力性能の観点からみて一枚上手だ。それも大差をつけた上で、だ。それほどカレラSのハンドリングは非常に素晴らしい。

だからといって、BMWの方が劣勢だと決め付けるのはまだ早い。なぜなら長きに渡りその地位と歴史を確立してきたスポーツカーに真向勝負できる実力を持っているからだ。市街地を電気モーターのみで走る時に発揮する能力や、低速域での力強いトルクを一度味わえば、i8がいかに洗練され、驚くほど経済的かが分かるだろう。

今回のテストで明らかになったのは、どちらのモデルを選ぶにも充分な理由があるということだ。もし、あなたがエンスージアストでかつ運転そのものを何よりも愛するのであれば、911を選べば良い。ポルシェは明白にエンターテイメント性に優れるスポーツカーだからだ。

また、ダイナミック性よりも未来的な外観と技術的革新に重点を置くのであればi8を選ぶべきだ。i8はクールさと複雑怪奇な美しさを高いレベルでブレンドした世界唯一の都会的なスポーツカーと言えるだろう。

(グレッグ・ケーブル)

BMW i8

価格 £99,845(1,480万円) ※£5,000(74万円)の政府助成金は含まず
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.4秒
燃費 57.4km/ℓ
CO2排出量 49g/km
乾燥重量 1560kg
エンジン 3気筒1499ccターボ(リア) + 131ps電気モーター(フロント)
最高出力 362ps/5900rpm
最大トルク 58.1kg-m/3700rpm
ギアボックス 6段AT(リア) + 2段AT(フロント)

ポルシェ911 50thアニバーサリー・エディション

価格 £103,845(1,770万円)
最高速度 300km/h
0-100km/h加速 4.2秒
燃費 11.5km/ℓ
CO2排出量 205g/km
乾燥重量 1430kg
エンジン 水平対向6気筒3800ccツインターボ
最高出力 430ps/7500rpm
最大トルク 44.9kg-m/5750rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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