直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 前編

公開 : 2022.02.27 07:05  更新 : 2022.08.08 07:14

最後の直列6気筒となったSタイプ

一方で英国中部、クルーに拠点を置くベントレーは、自社製のスタンダードスチール・ボディを架装したサルーンを、終戦直後の1946年から生産していた。そのMk VIとRタイプは、傑作に数えられる。

Mk VIの登場から8年が経過した1955年、フラッグシップはSタイプへモデルチェンジ。これが、ベントレー最後の直列6気筒モデルになった。同時に、ロールス・ロイス・シルバークラウドも誕生した。

ベントレーS1(1955〜1959年/英国仕様)
ベントレーS1(1955〜1959年/英国仕様)

当時のベントレーはロールス・ロイス傘下にあり、クルーを拠点とする2ブランドは同等の品質を備えていた。エンジンやメカニズムなども共有していた。銘柄での違いといえば、フロントグリルとエンブレム程度だったといって良い。

スタンダードスチール・ボディのスタイリングを手掛けたのは、デザイナーのジョン・ブラッチリー氏。シルバークラウドとSタイプのボディは美しく荘厳で、当時のコーチビルダーの仕事を霞ませるほどだった。

ボンネットやドア、トランクリッドは軽量なアルミニウム製。先代モデルよりサイズが大型化され、アメリカ市場へも効果的にアピールできた。投入されると、販売数が倍増したほど。

ボディの内側は、基本的に先代と大きくは違わない。だが、ボックスセクションのシャシーは剛性が高められ、リアアクスルは安全性が高められていた。

ブレーキはトランスミッション駆動のサーボ付きで強力。より軽量で大きなドラムを備え、ブレーキシューの面積は22%も増えている。

2032kgの車重で最高速度は170km/h

エンジンは、30年前に起源を持つロールス・ロイスの直列6気筒がベース。Sタイプの初代、S1には、Rタイプ・コンチネンタルなど用に開発された4887ccユニットが搭載されている。

6ポートヘッドとSUキャブレターを2基搭載し、高出力化が図られていたが、当時は最高出力が非公表。170ps以上は発揮できていたに違いない。

メルセデス・ベンツ300b(1954〜1957年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300b(1954〜1957年/英国仕様)

車重はメルセデス・ベンツ300より重い2032kg。それでも、大型キャブレターと高圧縮比が与えられた後期型では、170km/hの最高速度を実現していた。

先代のRタイプでは、オートマティックに人気が集まっていた。それを受けて、S1ではGMのライセンス生産版となる4速ATが標準装備だった。

ダイムラー・ベンツも北米ではATが必要だと判断。自社開発を進めていたものの、1955年に投入された300cへは、ボルグワーナー社から3速ATを購入し搭載している。

この300cは、ドイツ車として初めてATが標準装備された量産車になった。それ以降、300シリーズの生産が終了する1962年まで、コラムMTはオプション扱いにされた。

現在は小型車でもパワーステアリングは当然の装備だが、メルセデス・ベンツ300もベントレーS1も、当初は採用なし。S1は発売翌年の1956年から、300ではモデル最後の1958年から選べるようになった。

1958年の300dは、燃料インジェクション化で162psを発揮。ピラーレス・ルーフと大きなトランクリッドが特長だった。ロングホイールベース版も300dから標準モデルに加わり、W189型へコードネームも改められている。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事