直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 後編

公開 : 2022.02.27 07:06  更新 : 2022.08.08 07:14

メルセデス・ベンツとベントレー。英独の2ブランドが戦後に生んだ上級サルーンを、英国編集部がご紹介します。

次世代モデルではV型8気筒へシフト

戦後の上級サルーン、メルセデス・ベンツ300シリーズとベントレーSタイプ。生産台数を確認してみよう。

1955年から1959年に製造されたスタンダードスチール・ボディのSタイプ、S1は、ロールス・ロイスのシルバークラウドと合わせて5312台。当初はベントレーに支持が集まっていたが、1959年以降のS2とS3ではロールス・ロイスが逆転している。

シルバーのベントレーS1と、ブラックのメルセデス・ベンツ300b
シルバーのベントレーS1と、ブラックのメルセデス・ベンツ300b

一方、1951年から1962年に製造された300シリーズは、1万1430台。これには、4ドアカブリオレも含まれる。1950年半ばまで、売れ行きは好調だった。

1962年に11年が経過した300は、新しい600へフラッグシップの道を譲る。V型8気筒エンジンへ交代しながら。ただし、大排気量の直列6気筒は1967年まで別モデルへ登用された。

英国のクルーでは、オールアルミの6.2L V型8気筒エンジンが1959年に登場。6気筒エンジンは役目を終えるが、数十年の開発の成果といえる静寂性や燃費の良さ、信頼性の高さから、存続を望む声も少なくなかったという。

今回ご紹介するブラックのメルセデス・ベンツ300bは、1954年式。ロンドン・ハイドパークへ通じる、ボンドストリートのディーラーで販売されたクルマだ。

走行距離は4万7000km。2021年9月のオークションでは、4万3000ポンド(約666万円)で落札されている。やつれた300bをレストアするとしたら、こんな金額では済まない。そう簡単には手放したいとは思えない。

シェルグレーと呼ばれる深みのあるシルバーに塗られたベントレーS1は、1977年以来、信念を持つ一家が守ってきた2オーナー車。走行距離は5万9500kmを超えたばかりだ。

強権的な風格の300b 女王的な威厳のS1

多くのS1は、結婚式の送迎車両になるか、独自のスポーツカーを作るためにエンジンが抜き取られた。だが今回のS1は、新車時の見事な姿を湛えている。

中古のロールス・ロイス・シルバークラウドIIIを5000ポンドで買えた時代に、2代目オーナーは8000ポンドで入手したという。2021年4月のオークションでは、3万6500ポンド(約565万円)が付いている。

ベントレーS1(1955〜1959年/英国仕様)
ベントレーS1(1955〜1959年/英国仕様)

300bの初代オーナーは、豊かな財産と同じくらい、強い気持ちの持ち主だったに違いない。戦争の記憶が薄れない1950年代の英国では、ドイツ車を運転する人を白い目で見ることも少なくなかった。

独裁者の匂いは薄れていても、今でも黒い300bは007映画の悪役的な雰囲気がある。ベントレーS1と同じくらい大きく見えるが、実際は全長で300mm以上も短い。

車内は同等に広々としており、荷室も巨大。2本のスペアタイヤも飲み込むほど。メッキバンパーに付いた縦のオーバーライダーと三角窓、穴開き加工のスチールホイールが、300「b」の特長だ。

メルセデス・ベンツが大統領の強権的な風格を放つのに対し、長いボンネットに低いルーフラインが与えられたベントレーS1は、より女性的。威厳を漂わせる女王のようで、ドイツ車との直接比較は適さないように感じられる。

ベントレーは、多様に乗れる存在感の強いサルーンの需要を認識していた。太いCピラーで、リアシートの裕福なオーナーを隠すことができる。同時にプライベート・カーとして、フロントシートへの快適性にもこだわってある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1の前後関係

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