直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 後編

公開 : 2022.02.27 07:06  更新 : 2022.08.08 07:14

雇われ運転手の気分になるメルセデス

2台とも、インテリアには手仕事の丁寧さが漂う。内装の素材や仕上げは感心するほど。最上級のレザーが用いられ、リクライニング・シートにラジオ、高性能なヒーターとベンチレーションを備える。

300bは、ウインカースイッチを兼ねたホーンリングや、ルーフの前後に掛かる長いバー状のハンドルなど、独自の装備が面白い。印象的にドアが閉まり、集中シャシー潤滑機能も装備する。

メルセデス・ベンツ300b(1954〜1957年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300b(1954〜1957年/英国仕様)

一方のS1も、ピクニックテーブルにCピラー裏のバニティミラーなど、英国流の気配りが施されている。読者は、どちらの車内を好むだろうか。

メルセデス・ベンツのダッシュボードはクロームの装飾が多く、細かな造形が視覚的に少々うるさい。繊細な木目にシンプルでエレガントな造形のベントレーへ、筆者は惹かれてしまう。見た目に心地よく、よりリラックスできそうだ。

300bの運転席に座ると、雇われ運転手の気分になる。フォーマルな印象が強く、装備が充実しているとしても、運転を楽しむより業務を遂行している感じが強い。

コラムの4速MTは、当時では優秀なものだった。しかしミスシフトを避けるために、注意しながらレバーを動かす必要がある。

変速に慣れれば闊歩できる。6000rpmまで回転数も使い切れる。3速で130km/h近くまで加速でき、当時の最速サルーンの1台だったことを実感する。

速度が増すほど車重も気にならなくなる。ステアリングは低速域では重いものの、スムーズさとダイレクトさが増していく。旋回能力も、60年以上前の大型サルーンとしては望外に高い。

ブランドらしさが表れた上級サルーン

他方のベントレーS1は、4速AT。排気量も2.0L近く大きく、高回転域まで回さずとも、太いトルクを活かし洗練性を保ったまま力強さを引き出せる。ATはシフトアップに積極的で、機会が許せばトップギアを選ぼうとする。

S1にはパワーステアリングも装備され、ステアリングホイールは軽い。交差点でのひと仕事に感じるメルセデス・ベンツとは異なり、アンダーステアも隠してくれる。ブレーキも強力で、漸進的に効く。

シルバーのベントレーS1と、ブラックのメルセデス・ベンツ300b
シルバーのベントレーS1と、ブラックのメルセデス・ベンツ300b

2台とも走りは安定しているが、ベントレーのリアアクスルは入力に対し上下動が大きい様子。メルセデス・ベンツのフラットで落ち着いたホイールさばきは、現代車並み。その時代のサルーンとしては、驚くほど洗練されている。

メルセデス・ベンツの6気筒エンジンは、きめの細かい唸りを響かせる。ベントレーは、遠くで息使いが聞こえる程度。ほとんど音を発せず、操作に対し即座に反応し、加速する。300bもS1も、1950年代を代表する素晴らしいモデルだ。

メルセデス・ベンツ300bは、商用車やタクシー車両までを生産する、ダイムラー・ベンツ社のフラッグシップ。高水準の技術力と、妥協のない洗練性が、大きなリムジンへ投入されている。

他方のベントレーSタイプは、ブランド唯一のモデルという、贅沢な環境を活かし切っている。求める顧客を正しく理解し、比較できるようなブランドがない時代に、望み通りのクルマを生み出していた。

どちらも最上級。どちらも正解だった。

協力:マナー・パークク・ラシックス社

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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