デ・トマソ時代のヴィンテージ マセラティ・シャマル 誤解されたクーペ 前編
公開 : 2022.03.05 07:05
ブランドを象徴する後光が輝くモデル
デ・トマソ時代を飾ったビトゥルボは、決して悪いクルマではなかった。だが、素晴らしいクルマでもなかった。
足を引っ張ったのが、アレッサンドロが進めた無秩序ともいえるグレード展開。1980年代には、3種類のエンジンと5種類のボディスタイルが市場へ投入され、50種もの組み合わせが選択可能になっていた。
BMW 3シリーズのライバルとして想定されていたビトゥルボ。しかし多種展開がコスト増を招き、価格へと反映していた。
製造品質や操縦性の向上も、モデルライフの途中で施されている。だが、基本的なパッケージングは不変。値段の張るオプションが追加されても、販売の上方修正には結びつかなかった。
ビトゥルボのスタイリングを担当したのは、マセラティのデザイナー、ピエランジェロ・アンドレアーニ氏。1987年から1989年式にかけては、巨匠、マルチェロ・ガンディーニ氏がフェイスリフトを施した。
それでもビトゥルボの販売は好転せず、新モデルの必要性に迫られた。ブランドを象徴するような機能を持ち、ポジティブな後光が輝くモデルを。既にビトゥルボは発売から数年が経過し、出来得る限りのことは尽くしていた。
マセラティの経営も、安定していなかった。そんななかでシャマルというアイデアは、現実への道を歩み始めた。デザインを任されたのは、再びガンディーニ。マーケティング的には、強く後押しする名前といえた。
330psを発揮するV8ツインターボ
ハンサムなボディの内側にあったのは、基本的にはビトゥルボのアーキテクチャ。1988年にそれと並行して投入された、ショート・ホイールベース版のクーペ、カリフとの共用が求められた。
同時期には、アルファ・ロメオSZなど型破りなエキゾチックも登場していたが、結果的に与えられたスタイリングは、ガンディーニとしては控え目。リアのホイールアーチが、彼のランボルギーニ・カウンタックのように傾斜している程度だ。
美しくエレガントではある。だがそれが、パフォーマンスへの議論を過度に高めてしまったと思う。
エンジンは、3127ccのV型8気筒。先代のV型6気筒をベースにクワッドカム化し、日本のIHI社製ターボを2基載せ、ブースト圧を均一化させる制御システムが与えられた。
圧縮された空気は、ラジエター前方の2基のインタークーラーで冷却。ECU制御の点火システムと、ウェーバー・マレリ社製の燃料インジェクションも採用している。その結果、最高出力330ps/6600rpmを達成。最大トルクは44.4kg-m/2800rpmを誇った。
トランスミッションは6速マニュアル。クワイフ社製のLSDを介して、リアタイヤを駆動した。
サスペンションは、フロントがマックファーソンストラット式。ラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリングと併せて、後期型ビトゥルボからの派生版となる。そのかわり、リアのトレーリングアーム式サスは新設計だ。
ホイールは、7スポークのOZ社製を登用。インテリアでは、ダッシュボードがビトゥルボの流用だったものの、シートはシャマルのために新調された。
この続きは後編にて。