内燃エンジンの頂点:V12 フェラーリ812 GTS x 550マラネロ 最大の理解者 後編

公開 : 2022.02.26 09:46

少気筒・電動化へのシフトが進むなか、V型12気筒を守ってきたフェラーリ。25年の進化を英国編集部が振り返ります。

日常的な乗りやすさと秀でたパフォーマンス

フェラーリ599 GTBフィオラノには、エンツォに搭載された140度のV型12気筒ティーポ・ユニットが登用された。最高出力は620psで、0-161km/h加速は7.4秒と、当時のパガーニ・ゾンダSへ渡り合った。

マネッティーノと呼ばれるドライブモードのセレクターは、この時代にステアリングホイールへ追加されている。少々手荒ながらクイックに変速をこなす、パドル付きの6速セミATも。

ダークグリーンのフェラーリ812 GTSと、ダークブルーのフェラーリ550マラネロ
ダークグリーンのフェラーリ812 GTSと、ダークブルーのフェラーリ550マラネロ

ハードコアなハンドリングGTEパッケージも登場したが、日常的な乗りやすさと、秀でたパフォーマンス、非の打ち所のないシャシー制御という、見事なバランスは失われていなかった。今でも、グランドツアラーの傑作といえる。

それに続いたのがF12ベルリネッタ。6262ccのV12エンジンは、740psという大パワーを絞り出した。ボディサイズは599よりひと回り小さくなり、車重も70kgほど軽量。成長を続けるボディサイズに対する、アンチテーゼだった。

スタイリングは、フェラーリとしては初めて社内デザイナーが担当。シャシーは612スカリエッティと並行して開発され、エンジンの搭載位置はフロントアクスルより後ろ側。フロントミッドシップとなっている。

見た目の特徴が、エアロブリッジと呼ばれるボンネット両端のえぐれたライン。フロントガラスへ向かう空気を、ボディサイドへ割り振る機能を持つ。フェンダー付近の空気抵抗を減らす目的もあった。

車重は、燃料を満タンにした状態で1715kg。ステアリングホイールは軽く、レシオはクイックで、ボディサイズを感じさせないハンドリングを実現していた。

座るだけでうれしくなる550マラネロ

2017年、現行モデルの812スーパーファストが発売される。基本的には先代の進化版といえ、モデルコードもF152からF152Mと、数字は変わっていない。Mはモディフィケート、改良の略だ。

エンジンは継続採用のF140ユニットながら、排気量を6496ccへ拡大。最高出力800psと最大トルク73.1kg-mという、新次元の数字を実現していた。内部構造は大幅に異なり、新エンジンと呼んでも良さそうではある。

フェラーリ550マラネロ(1996〜2001年/英国仕様)
フェラーリ550マラネロ(1996〜2001年/英国仕様)

そんな進化を経てきた、V型12気筒のフェラーリ。高性能グランドツアラーに対する考えは、四半世紀で多少変化したかもしれない。それでも、550マラネロのシートに座りエンジンを目覚めさせれば、思わずうっとりしてしまう。

高めに据えられたダッシュボードに、7枚のアナログメーターが美しく並ぶ。アルミ製のオープンゲートから伸びる、球体に削られたシフトノブを握る。

発進させると、コンパクトに感じる。圧倒される雰囲気もない。腕を伸ばすドライビングポジションを除いて、思いのほかクルマとすぐに打ち解けられる。

ミルブルック自動車試験場の南、ハートフォードシャー州のカーブが続く道を、積極的に運転できる。18インチ・ホイールが支える乗り心地はしなやか。シフトレバーを動かすとゲートにカチカチと当たり、顔が緩む。

視界が開けたところで、ストロークの長いアクセルペダルを踏み込む。さっきまで落ち着いて回転していた5.5LのV12エンジンは、勢いよく吹け上がり、漸進的にパワーを放ち出す。

気付くと、驚くほどの速度に到達していた。内装のどこかできしむ音がするが、8万8500kmという走行距離は感じさせない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

内燃エンジンの頂点:V12 フェラーリ812 GTS x 550マラネロ 最大の理解者の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事