自動車開発スピード どうすれば速くなる? 中国企業の凄まじい追い上げ、既存メーカーの対応は

公開 : 2022.02.22 18:05

IT企業と提携も 既存メーカーの一手

ルノー・グループのソフトウェア・ファクトリー責任者であるティエリー・カンマル氏は、半導体サプライヤーであるクアルコムとの提携を発表した際に、同社と協力することで車載ソフトウェアの開発期間を1年短縮できるだけでなく、新しいサービスをクラウド上で構築し、現在約3年かかるところを3~6か月で提供できるだろうと述べた。

これを実現するカギとなるのが新しい半導体で、車内のさまざまな機能を制御する強力なコンピューターだ。これが搭載されれば、中古車でも最新のソフトウェアや機能が実装され、陳腐化に歯止めをかけることができる、とルノーなどは述べている。理論的には、だが。クアルコムのような半導体サプライヤーは、毎年アップグレードを要求されるスマートフォンの回転の速さに慣れており、これに対して自動車産業では10年以上の耐用年数が必要とされるのである。

欧州では環境規制の強化に伴い、クルマの電動化が加速し、選択肢も増加の一歩を辿っている。
欧州では環境規制の強化に伴い、クルマの電動化が加速し、選択肢も増加の一歩を辿っている。

ハードウェア開発を加速させることはもっと難しいが、どんな開発プロセスでも、常に弛みはあるものである。フォードのジム・ファーリーCEOは、昨年10月のアナリスト向け電話会議で、開発期間について同社の新型ピックアップトラックであるマーベリックを例に挙げ、次のように話している。

「マーベリックの時のようにチームとしてまとまれば、わずか2年で完成するということもあり得ます。マーベリックの開発期間は20か月短縮できましたが、そのためにはデザインスタジオで半年も手をこまねくことがないよう、リーダーシップチームが必要でした」

しかし、F-150ライトニングやマスタング・マッハEのようなEVの発売にはリードタイムが長い方が望ましいとし、「製品を作る速さがすべてではありません。産業システムにおいて、柔軟で俊敏な対応ができるかどうかか重要です」と述べた。そして、そのためには、「産業システムが受注数に対応できるように」早めに予約を取ることがポイントだという。

フォルクスワーゲンは、バッテリーの化学的性質に関係なく同じ形状を保てる、いわゆる「ユニファイド・セル」を採用することでバッテリー開発速度に対応しようとしている。この角型セルは現行システムよりもパッケージングに優れており、2023年にアルテミス・プロジェクトでデビューする予定だと、同社は昨年発表している。

柔軟性と機動力が武器 躍進する新興企業

新興企業は、すべての部品を個々のサプライヤーから調達するのではなく、車両をモジュールで組み立てるという新しいアプローチを試みている。「従来の自動車では、3500ものサプライヤーが関連していることがあります。一方、ある新興企業は77、別の新興企業は23のサプライヤーしか抱えていません」

このようなモジュールベースの部品調達は、電動配送車のようなシンプルな車両に適している。この場合、市場への投入スピードやコスト、最新技術は、おそらく車両自体の完成度よりも重要な要素であろう。リスクはサプライヤーに依存するが、実績のあるサプライヤーを選べば、そのリスクは軽減される。

EV開発にはさまざまな企業が挑戦している。写真はスウェーデンのボルタが開発した電動トラック。
EV開発にはさまざまな企業が挑戦している。写真はスウェーデンのボルタが開発した電動トラック。

スウェーデンの新興企業であるボルタ(Volta)のEVプロジェクトは、驚くほど迅速に進んだ。デザインを手掛けた英国のアストハイマー・デザイン社のカーステン・アストハイマー氏は、「このプロジェクトは非常に緊迫したものでした。最初のスケッチから1年で最初のプロトタイプを完成させました」と述べている。

従来の自動車会社とは、その差が顕著だった。「OEMのプロセスは、非常に官僚的で規則的です。新興企業では、プロジェクトの内容を見て、それに合った工程を作り、より速く進めることができるのです」

しかし、工程を省略しすぎると、品質が落ちるというリスクもある。家電製品の開発スピードは、安全性と耐久性を重視しなければならない自動車業界では再現不可能だ。工程を短くすることで得られる利益は、高価なリコールで消えてしまう可能性がある。トリゴのエンドレイ氏はこう言っている。「購入者に自動車をテストさせるようなことは、したくないでしょう」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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