EV火災の恐怖 ホントに危険? 消火できない理由や出火原因、対策を考える

公開 : 2022.02.22 17:45

EVが注目を集める中、その火災リスクを指摘する声も高まっています。バッテリーならではの消火の難しさとは。

消えない火 有毒ガスの発生も

欧州を中心に成長を続けるEV(電気自動車)市場。道路を走るEVが増えるにつれ、その安全性、特に火災のリスクに注目が集まっている。

ガソリン車やディーゼル車でも火災を起こす可能性はあるが、EVの火災(2019年にはロンドン市内で54件発生)は比較的注目を集めやすい。その理由は、真新しさからくる興味関心だけではない。EVの火災は複雑で、しばしば「ヒュー」という音と毒性の高い煙で前兆を示し、場合によっては爆発が起こる。自然発生的に起こることや、消火が非常に難しいことなども理由の1つだ。鎮火したかと思うと、数時間後、数日後、あるいは数週間後に再び出火する場合がある。

EVで火災が発生する可能性は、ガソリン車はハイブリッド車より低いとも言われるが、発火のメカニズムは複雑で消火が難しい。
EVで火災が発生する可能性は、ガソリン車はハイブリッド車より低いとも言われるが、発火のメカニズムは複雑で消火が難しい。

このように考えると、EVの火災を心配する人が増えても不思議ではない。ありがたいことに、消防当局はEV火災に対処するための戦略を練っている。例えば、英国のベッドフォードシャー消防局は、EVが絡む交通事故や火災が発生した場合、「消防車の1台が(EVを回収した)レッカー車に追従し、火災に備える」と発表している。また、消防隊員が事故に巻き込まれたEVの車種と、バッテリーや絶縁スイッチの位置を特定できるシステムを開発したという。

EV火災にどう対処するかについては専門家の間でも意見が分かれているが、一般的には、大量の水でバッテリーパックを冷やし(ただし、これで再び火が出るのを防ぐことはできない)、ファイヤーブランケットで炎を抑え、消防隊員は有毒な蒸気から身を守るために呼吸装置をつけるのがスタンダードな方法であるという。

あるいは、炎が自然に消えるのを待つしかない。不活性ガスで消火しようとしても、化学物質による炎なので酸素を必要としないため、効果はない。爆発によってバッテリーパックから飛び出したセル(バッテリーを構成する部品)が自然発火する可能性もあるため、周囲をよく点検する必要がある。そして、燃え尽きたEVや部品を撤去し、建物や他の車両から離れた場所に保管しなければならない。水に浸しておくことも対策に挙げられるが、塩素ガスが発生する可能性があるため、海水は使用できない。

熱暴走 空のバッテリーでも危険

消費者がEVを避ける理由ともなりそうな、憂慮すべき問題だ。英ニューカッスル大学の純粋応用電気化学の教授で、全英消防署長協議会の上級顧問であるポール・クリステンセン氏は、EVの火災安全性に対する懸念を払拭するため、EVの利点や火災対策について熱心に説明している。

日産自動車のバッテリー工場設立を支援した者として、もし余裕があれば、明日にでも日産リーフを購入したい。EVの火災は少ないので心配する必要はありませんが、注意は必要です。リチウムイオンバッテリーは、非常に小さなスペースに大量のエネルギーを蓄えています。2008年以降、このようなバッテリーの採用は、そのリスクに対する我々の理解を上回りました。我々は遅れを取り戻そうと努力しており、追いつくことができるでしょう」

衝突によるバッテリーの損傷や、高い温度が火災を引き起こす原因となる。
衝突によるバッテリーの損傷や、高い温度が火災を引き起こす原因となる。

クリステンセン氏は、消防隊員のEV火災リスクに対する認識を高めるため、これまでに英国(50局のうち30局)をはじめ、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの消防局で講演を行ってきた。講演ではまず、リチウムイオンバッテリーのセル構造について説明する。

正極(カソード)と呼ばれるアルミニウムの薄片は、混合金属酸化物でコーティングされている。その上に、グラファイトでコーティングされた銅の負極(アノード)が乗っている。2つの間には、有機溶媒に浸したプラスチックのセパレータがあり、そこに少量の添加物が含まれているのだが、その正体はバッテリーメーカーにしか分からないという厄介なものだ。バッテリーの充電・放電に応じて、リチウムイオンが正極と負極の間を移動する。

満タンの状態では4.2Vの電荷があるが、空の状態でも2.5Vの電荷が残っている。この話は消防隊員にショックを与えるそうだ。日産リーフは約192個のセルで24個のモジュールを構成し、テスラモデルSは16個のモジュールに7000個以上のセルを積んでいる。車内のディスプレイに「空」と表示されているときも、かなりのエネルギーを保持しており、これが熱暴走につながると考える科学者もいる。

熱暴走とは、発熱により水素や酸素などの可燃性ガスが発生し、セルが燃え始め、破裂してしまう現象だ。この時、有毒な蒸気が発生し、爆発する危険性もある。一度熱暴走が始まると、バッテリー制御システムやサーキットブレーカーでは止めることができない。「バッテリーの火災は制御できても、消すことはできないのです」とクリステンセン氏は言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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