世界最大級の自動車図書館が凄すぎた 個人所蔵の貴重なコレクションに圧倒

公開 : 2022.02.23 19:45

貴重なコレクションの数々 バトラー氏の情熱

インディ500のプログラムも、初開催時のものからすべて持っている。例えば、1907年にブルックランズで初めて開催されたレースのプログラム。そして、1909年にインディアナポリスで開催された第1回大会のプログラムも、同じように彼の手元にある。

雑誌の話に戻すと、バトラー氏のお気に入りは『La Vie Automobile』誌だ。彼いわく、「1904年から1956年まで発行されたもので、わたしが気に入っているのは、第1号から最後まで同じ人が編集していることです。ゼネラルモーターズの図書館で購入したものです」とのこと。

E・ディーン・バトラー氏のアーカイブ
E・ディーン・バトラー氏のアーカイブ    AUTOCAR

筆者を感動させたのは、『Hot Rod』誌の全巻セットだ。「すごい」と思わず声が出る。「グレイ・バスカヴィルが初めてこの雑誌に寄稿したころのものですね」

バトラー氏は筆者のホットロッド愛に気付いたのか、著名な米国の実業家エド・イスケンデリアン(ホットロッダーでチューナー)が制作したカタログと、初期のSo-Cal Speedshop社のパンフレットを取り出した。心臓の高鳴りが抑えられない。

筆者は1970年代後半から『Car and Driver』誌を時々購読しているが、当然のことながら、バトラー氏は全巻持っている。この雑誌は、1961年に編集者のカール・ルドヴィクセン(自動車ジャーナリスト)が誌名を変更するまで、『Sports Cars Illustrated』として刊行されていた。当然ながら、ルドヴィグセンの書籍『Porsche: Excellence Was Expected』も同じ棚に並んでいる。「わたしが初めて買ったクルマの本はMG Tシリーズのもので、偶然にもカールが書いた最初の本でした」とバトラー氏。

フェラーリのセクションには筆者が執筆した書籍『Ferrari Racing: A Pictorial History』も置かれていたが、サインして価値が上がる代物ではないだろう。

宇宙飛行士にレーサー 著名人のサインも多数

時々、フラットヘッド・フォードV8のエーデルブロック(シリンダーヘッドカバー)やミラー・キャブレターのようなオブジェで棚が埋まっていることがある。(バトラー氏は、2台しか製造されなかった幻の4輪駆動インディレーサー、1932年製ミラーFWDを所有している)。

「グッドウッド・トンを見たことがありますか?」と、バトラー氏は小さなピラミッド型の重りのようなオブジェを渡しながら尋ねた。「グッドウッドで160km/hを達成したドライバーに贈られるんです」

E・ディーン・バトラー氏のアーカイブ
E・ディーン・バトラー氏のアーカイブ    AUTOCAR

これには驚いた。これは1964年に当時レーサー、マイク・ヘイルウッドに贈られたものだ。

ペースは落ちない。続いて『Sports Cars of the World』という本を手渡される。その見返しには、こう刻まれている。「ディーンによろしく、ニール・アームストロング」……彼はオハイオの隣人だったという。

バトラー氏は特にサインを集めているわけではないのだが、アーカイブにはいいものがたくさんある。バトラー氏は、これまでに所有しレースに出場した数十台の中で、ルイ・シロンがかつて出走したブガッティT51が一番好きだという。エットーレ・ブガッティの生誕100年を祝うイベントのプログラムには、ブガッティを代表する人物であるルイ・ブレリオとエリザベス・ユネック(別名:エリシュカ・ユンコヴァー)の署名がある。

ユネックはブガッティのドライバーで、史上最高の女性ドライバーの1人であり、タツィオ・ヌヴォラーリを真っ向から打ち負かした人物である。そんな彼女が書いた料理本も見せてもらった。「ユネックが書いたチェコの料理本です。ここにある唯一の料理本ですが、どうしても欲しかったんですよ」

伝記はあまりないようだ、と筆者が指摘すると、「別室で」とバトラー氏。そこには確かに、レースや自動車業界の伝記がずらりと並んでいる。筆者自身が持つコレクションも悪くはないと思うのだが、バトラー氏は筆者の1000倍は持っている。例えば、フランソワ・セベールの分厚い伝記もあるが、英語ではなくフランス語で書かれたものだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    コリン・グッドウィン

    Colin Goodwin

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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