R35GT−R再発見 15年を生き続けるゴジラ 高まり続けた性能と価格 まだまだ現役を張れる実力

公開 : 2022.03.05 20:25

ジキル抜きのハイド

日産から借り受けた試乗車のモデルイヤーは2020年だが、最新モデルと大して違いはない。標準モデルとの違いは、まずはパワーであり、それをもたらす改良版ターボチャージャーだ。さらに、カーボンセラミックブレーキを装備し、ボディパネルやエアロパーツ、シートなどがカーボン素材の専用品となっている。いってみれば、ただのクルマではなく、サーキットで戦うための兵器のようなマシンだ。それも、500年前の投石器のような類の。

これまで、このゴジラに心酔したことはなかった。はじめて乗ったとき、同僚たちは大袈裟すぎる言葉を並べ立ててそのクルマを称えたが、後席に座った筆者は困惑しながら、小声でつぶやいたものだ。「理解できない」と。なにが理解できなかったのか。それは当時、すでに強烈な速さとより俊敏な走りをみせる、はるかに軽量で実用性にも優れる三菱ランサーエボリューションが半額ほどで買えるのに、GT−Rのなにが、それを超えるほどすばらしいのか、ということがだ。その疑問に対して、確信を持てる答えが見つけられなかったのである。

スイッチだらけでお世辞にもスマートとは言えないコクピットだが、タッチパネル全盛のいまになってみるとむしろ好ましく感じる。
スイッチだらけでお世辞にもスマートとは言えないコクピットだが、タッチパネル全盛のいまになってみるとむしろ好ましく感じる。    MAX EDLESTON

もっとも、それは昔の話。今回はまた、頭を切り替えるとしよう。現在のF1王者が10歳の頃に登場したGT−Rは、当時のマックス少年が目にしたであろう姿とほとんど形を変えずここにある。コクピットはそれほど巧妙に作り込まれた空間ではない。しかしだ。そう思うのは、15年という歳月を経た今だからこそだといっていい。実際のところ、個人的にはかなり好ましい。

スマートで、きらびやかで、タッチ式画面を備えはしても、ほとんど可愛げがない最近のクルマのキャビンに比べれば、滅びへの道を歩んでいる実体スイッチの数々には実直さと確実さを感じられる。かつてはケーブルとロッドを介してボーイング747を操っていたブリティッシュ航空のパイロットたちが、今やのっぺりしたエアバスの操縦席で、トゥールーズのコンピュータープログラマーの望んだ飛ばし方ができるよう再訓練を受けているあわれに思いを馳せてしまった。

エンジンはアイドリングでも荒々しい音を立て、じつに頼もしい。GT−Rニスモは、911ターボSのような、ジキルとハイドみたいなクルマではない。エンジンをかけてから切るまで、ずっとハイドのようなクルマだ。ただし、破滅的な二日酔いで、バットを構えたこちらへ向かってくるハイドといったところ。多少なりとも手がかかる。

言っておかなければならないのは、乗り心地がすばらしいクルマではないということだ。どれくらい乗り心地が悪いかというと、うっかり超ハードなRモードに入れてしまっているのではないかと、無意識に確認してしまうくらいだ。実際には、そんなことはしていないのだが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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