WRCの栄光を市販車に スバル・インプレッサ P1とフォード・エスコート RSコスワース 前編
公開 : 2022.03.20 07:05 更新 : 2022.11.01 08:57
ワークスによるホモロゲーション・マシン
「シャシーエンジニアは、英国郊外の一般道を前提とした専用サスペンションを開発。MTのギア比も高められました。その結果、高速道路での長距離ドライブをリラックスして楽しめる、性格付けになっています」
「排出ガスや騒音規制にも準拠させながら、0-97km/h加速は4.6秒を実現。2000年前後では、スーパーカー級の加速力でしたね」
一方のエスコート RSコスワースは、比較すれば正攻法。フォードのワークスチームによって、レース参戦規定のホモロゲーション取得を前提に生み出されている。
WRCのグループAで優勝するという目標を達成するには、2500台以上の公道用モデルの販売が求められた。そこで、1989年に設計へ取り掛かったのが、スペシャル・ビークル・エンジニアリング(SVE)部門のロッド・マンスフィールド氏だ。
1990年に5代目フォード・エスコートが発売されるが、通常モデルとホモロゲーション・モデルで共通していたのはボディライン程度。その内側には、加工されたシエラ・コスワース用のプラットフォームが隠れていた。
当時のSVE部門でプロダクト・マネージャーを努めていたジェフ・フォックス氏の話では、ホイールベースを50mm短縮。シエラより短いものの、標準のエスコートより長かったという。
エスコート RSコスワースは、ボディパネルもほとんどが専用品。同じ部分は、3ドア用のドアとルーフだけだった。製造を請け負ったのは、ドイツのカルマン社だ。
シエラ・コスワースと同じパワートレイン
1992年後半に2500台限定でリリースされたエスコート RSコスワースの英国価格は、2万524ポンド。 多少角が丸められてはいたが、約350馬力のラリーマシンと同じギャレットT34ターボを搭載。最高出力227psを発揮した。
大径ターボのおかげで、インプレッサ P1もエスコート RSコスワースも、ターボラグが大きい。英国ではオール・オア・ナッシングと表現された、スイッチが入ったように切り替わる加速が個性でもあった。高効率化を図れる、水噴射システムも備わっていた。
ホモロゲーション取得以降のRSコスワースでは、最高300馬力ほどを引き出せる小径のギャレットT25ターボへ変更。よりリニアな加速を実現し、乗りやすい性格へ改められている。
生産されたすべてのエスコート RSコスワースには、ビスカスカップリング式の四輪駆動システムと、前後で34:66に駆動力を分配するセンターデフが装備されていた。基本的には、シエラ・コスワースと同じパワートレインだ。
「フィンランドの凍結した湖上で試験を重ね、デフのチューニングを詰めました。結果には満足していましたね」。と、SVE部門で技術者を務めていたレン・アーウィン氏が後に振り返っている。
「インプレッサと比較して、リア側へのトルク割合が大きい。スキルのあるドライバーにとって、オーバーステアでの扱いやすさと、予想のしやすい挙動をRSコスワースは得ていました」
この続きは後編にて。