WRCの栄光を市販車に スバル・インプレッサ P1とフォード・エスコート RSコスワース 後編
公開 : 2022.03.20 07:06 更新 : 2022.11.01 08:57
エンジンは鋭く回転し、加速は線形的
車内には、彫りの深いレカロシートが組まれ、内装トリムもアップグレードされている。赤いステッチがあしらわれたレザー・ステアリングホイールは、現代基準では驚くほど径が大きい。
ダッシュボードは、当時の典型的なスバル車。傷の付きやすそうなプラスティックを、カーボンファイバー風トリムが彩る。上部には、エンジンの状態を監視できる3眼メーターが並ぶ。
レカロシートに座ると、ボンネットからそびえる大きなエアスクープに圧倒される。キーをひねれば、ボクサー・ユニットらしいドロドロとした唸りが響き出す。秘めた爆発力を、隠しきれない。
インプレッサ P1は、ステアリングが軽くクラッチもつなぎやすく、低速域でも運転しやすい。だがやはり、パワーを引き出すほど「らしさ」が高まっていく。ラリードライバー、リチャード・バーンズ氏と自分とを重ねてしまう。
エンジンは鋭く吹け上がり、加速は感心するほど線形的。ストロークの短いシフトノブを操作し、4500rpmからレッドラインの8000rpmまで活かしきると、ターボチャージャーのフルパワーが開放される。
ステアリングホイールが大きいから、操舵感はややスロー。高速で走らせる場合は、悪い設定ではない。タイトなコーナーへ勢いよく侵入しても、フロントもリヤも、路面を掴み続ける。フリクションの小さい正確な反応が、うれしい。
センターデフは、前後で45:55にトルクを分配する。基本的にはアンダーステア傾向だが、どんな路面に対しても支配的な能力を発揮できる。WRCでの連勝にも納得する。
インプレッサ P1より全体の印象はソフト
一方で、ブラックのエスコート RSコスワースのオーナーは、グレッグ・エバンス氏。6年前に入手したそうだが、それ以前の9年間は倉庫で眠っていたそうだ。
生産から30年近くが経過するが、走行距離は約8万kmと短い。エバンスの購入後は、1600kmほどしか走らせていないという。
フラット・ブラックのボディカラーも含めて、完全にオリジナル状態が保たれている。英国で最も早期に登録されたエスコート RSコスワースの1台で、合計7145台製造されたうちの851番目。初期型の、ビッグターボ・ホモロゲーション・モデルだ。
サイドサポートの高いシートに身体を沈めると、この時代のフォード車らしいインテリアが迎えてくれる。インプレッサ P1と同じように、ダッシュボード上部にメーターが並んでいる。
ステアリンホイールはひと回り小さい。ペダルは右側へややオフセットされ、大柄なトランスミッション・トンネルをかわしている。シフトノブの位置は低め。グラフィック・イコライザー付きのカセットデッキが、懐かしい。
一般的なスピードで運転している限り、フィーリングはノーマルのエスコートに通じている。インプレッサ P1より全体の操作感もソフトで、ゴムブッシュのおかげか、サスペンションは細かな凹凸の吸収性にも優れている。
エンジン音も、中回転域までは控え目。だが、その後は様相が異なる。3500rpm前後まではブースト圧が低く、活気も乏しい。4500rpmを超えた辺りからギャレットT34が圧力を高め、本性が現れてくる。