なぜ? 「クロス系」ノート/フィットが売れないワケ ヤリス・クロス独り勝ちの背景

公開 : 2022.03.04 05:45

オーラをベースにすべきだった

価格の問題もある。

ノート・オーテッククロスオーバーは253万7700円で、装備を充実させたものの、ノート「X」グレードの218万6800円に比べて約35万円高い。

日産ノート・オーラ
日産ノート・オーラ

しかも上級のノート・オーラ「G」が261万300円で設定される。

ノート・オーテック・クロスオーバーに約7万円を加えると、ノート・オーラ「G」を買えるなら、多くのユーザーは後者を選ぶ。

ノート・オーラはSUVではないが、内外装はノート・オーテック・クロスオーバーよりも上質で、動力性能も高い。

ボディのワイド化とサスペンションの設定変更により、走行安定性も向上するからだ。

つまりオーテック・クロスオーバーは、ノートではなく、ノート・オーラをベースに開発すべきだった。

ノート・オーラは機能や装備を充実させた割に、ノートと比べた時の価格上昇が抑えられ、買い得度も強い。

開発者は「そこも検討すべきだったかも知れない」と振り返った。

ちなみにスポーティなノート・オーラ・ニスモは、エアロパーツを装着して専用のアルミホイールとハイグリップタイヤが備わり、シートを始めとする内装もスポーツ指向にあらためられ、走行安定性も向上した。

ドライブモードもスポーツモードをニスモ・モードに変更して走りの楽しさを盛り上げる。

ノート・オーラ・ニスモは内容をここまで充実させて、価格は286万9900円だ。

ノート・オーラ「G」と比べて26万円の上乗せに抑えた。

そのために販売面ではノート・オーラ全体の20%をニスモが占める。

仮に「ノート・オーラ・クロスオーバー」を開発して外観もカッコ良く仕上げ、価格を274万円前後に設定すれば、ノート・オーテック・クロスオーバーに比べて20万円高くても魅力的な商品に仕上がる。

なぜヤリス・クロスは売れる?

ヤリス・クロスが好調に売られ、フィット・クロスターやノート・オーテック・クロスオーバーが伸び悩む背景には、残価設定クレジットの残価率(新車価格に占める残存価値の割合)や返済額も影響を与えている。

ヤリス・クロス・ハイブリッドZ(258万4000円)は、3年後の残価率が52%と高く、残りの48%を3年間で分割返済する。

トヨタ・ヤリス・クロス
トヨタヤリス・クロス

月々の返済額は4万6900円だ(頭金のない均等払い)。

それがノート・オーテック・クロスオーバー(253万7700円)は、3年後の残価率が47%だから、残りの53%を返済する。

そのために新車価格はヤリス・クロス・ハイブリッドZよりも約5万円安いのに、月々の返済額は4万8500円と若干高い。

フィットe:HEVクロスター4WD(248万6000円)も、3年後の残価率は48%で、ヤリス・クロス・ハイブリッドZほど残価設定クレジットで有利にならない。

トヨタの販売店では以下のように説明する。

「ヤリス・クロスは内外装がカッコ良く、しかも残価が高い。そのために残価設定クレジットを使うと、返済額を安く抑えられる」

「同等の装備を採用したコンパクトカーのヤリスに比べると、価格はヤリス・クロスが高いのに、月々の返済額は逆に安くなる場合もある」

「そのために残価設定クレジットの見積りを比較して、ヤリス・クロスを選ぶお客さまもいる」

ヤリス・クロスの3年後の残価率は前述の52%だが、ヤリスは41%と低い。

そのために価格はヤリス・クロスが高いのに、返済額はヤリスよりも安くなる場合があるのだ。今は残価設定クレジットの利用者が増えたから、その返済額も、車種の売れ行きに大きな影響を与える。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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