自転車だけじゃなかった ビアンキ40HP 1907年生まれのイタリアン 後編

公開 : 2022.03.27 07:06

イタリア生まれのチェーンドライブ・ビンテージ。極めて貴重な115歳のスポーツカーを、英国編集部がご紹介します。 

路面が良くなると嵐のように疾走する

ビアンキ40HPのボディを降ろすと、堅牢な合板構造が顕になった。ブラケット類や様々な部品を含めるとボディは約250kgもあり、使い物にならないと判断。前のオランダ人オーナーへ戻されたという。

当時のパンフレットや写真を研究したオーナーのロバーツ親子は、2シーターか4シーターかを選べる、ツアラーボディの再制作を決めた。塗装色は悩んだそうだが、イタリアの伝統といえるレッドが選ばれた。

 ビアンキ40HP(1907年/英国仕様)
ビアンキ40HP(1907年/英国仕様)

「消防車のようにも見えますが、タイヤが跳ね上げた泥などの汚れがつくと、雰囲気が良くなるんです。父は2シーター・スタイルが好きだと話しますが、わたしは4シーターの方が好みです」。ルーク・ロバーツ氏が笑顔を見せる。

「オフロードコースを走るトライアル・レースだけでなく、パブへ仲間と行くのにも丁度いいですから。レースでは、トルクとグリップに驚かされます。濡れた芝生では扱いが難しいですが、良い路面では嵐のように疾走しますよ」

惜しみなく力を発揮している40HPだが、長く維持するための配慮も忘れていない。リアホイールは本来木製ながら、金属の鋳造品を履いている。ギア比も、歯車のスプロケットを変えて落としてある。

ビアンキを数年楽しんだロバーツ親子は、オリジナルのエンジンを保存すべきだと考えた。スペアエンジンを、ゼロから作ることで。

「フランスの貴重なダラックのエンジンが、マロリーパークのイベントでブローした事がありました。それを知り、40HPのエンジンを載せ替える必要性を感じたんです」

完全に作り直されたエンジンブロック

ピーター・ロバーツ氏が話す。「エンジンは好調でしたが、リスクは避けるべきでした。他のユニットは入手不可能。エンジンブロックには21-1-06という製造日の刻印が残っていたものの、細かい亀裂が出ていたんです」

レストア職人のクレイグ・コリングス氏の力も借り、新しい鋳造ブロックの制作がスタート。エンジンに詳しい、アリステア・ピュー氏にも協力を依頼した。

 ビアンキ40HP(1907年/英国仕様)
ビアンキ40HP(1907年/英国仕様)

「数年前にエンジンのリビルドしていて、内部構造は新しい状態。クランクとロッド、ピストン、バルブは、新しいエンジンにも流用しています。必要なら、オリジナルのエンジンに組み直すことも可能です」。とルークが説明する。

「128km/hの速度で、エンジンの回転数は1400rpmほど。ビンテージのベントレーのように走ります。トップギアでも安定して運転でき、冷気を吸うとエンジンは一層元気になるんですよ」

オフロードコースが好きな息子のルークとは対照的に、父のピーターはオンロードでの長距離ラリーへ傾倒している。レストアを終えたビアンキで、パリ-ウイーン間のラリーイベントを完走したそうだ。

「ドラマチックな出来事もなく、クラス優勝しました。スペシャルステージの一部はオフロードで、わたしたちも泥だらけでしたね」

「2022年の夏には、アイルランドで開催予定のシャムロック・ヴィンテージ・チャレンジなど、幾つかのラリーに出たいと考えています。2021年は中止続きでしたから」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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