「値上げしないと赤字」 原材料の高騰が自動車業界に与える影響 販売価格の改定相次ぐ

公開 : 2022.03.17 06:05  更新 : 2022.03.19 14:15

パンデミック、半導体不足、ウクライナ情勢など複数の要因が重なり、自動車の販売価格は上昇傾向にあります。

値上げをしなければ赤字になる

ロシアのウクライナ侵攻により、ただでさえ高い原材料費がさらに高騰し、自動車のさらなる値上げが避けられなくなっている。

自動車メーカーが現在置かれている状況は、米国の新興企業リビアンに見て取れる。リビアンは、新型の電動SUVや電動ピックアップトラックの納車を待っている顧客に対し、約1万2000ドル(約140万円)の値上げを発表し、彼らの怒りを買ってしまったのである。

自動車製造に不可欠な原材料の多くが高騰し、その影響は消費者にも及んでいる。
自動車製造に不可欠な原材料の多くが高騰し、その影響は消費者にも及んでいる。

苦情が殺到したため、すでに予約した顧客分は元の価格に戻したが、これから予約する人には値上げを固守した。リビアンのRJ・スカリンジCEOは書簡で、「(発売時から)多くのことが変化した。クルマを作るための部品や材料のコストはかなり上昇している」と述べている。

一方、フランスでは3月、ダチアの値上げをメディアが取り上げた。欧州最安とも言われるベースモデルのダチア・サンデロの価格が心理的に重要な1万ユーロ(約130万円)の大台を超え、1万590ユーロ(約137万円)に上昇したのだ。

ステランティスも、14のブランドで車両価格を改定することを示唆した。カルロス・タバレスCEOは、3月初めに開催されたイベントで、「原材料のインフレをカバーするために価格を上げている。値上げをしなければ、赤字になる」とジャーナリストに語った。

ロシアによるウクライナ侵攻以前から、鉄鋼、アルミ、プラスチックなどの原材料価格は上昇していた。昨年、経営コンサルティングなどを手掛けるKPMG社が1000人以上の自動車関連企業の経営者を対象に行った調査では、「最も懸念される分野」はサプライチェーンであり、約半数が最近の商品価格の変動が今後1年間のビジネスに与える影響を「非常に、あるいは極めて懸念している」ことが明らかになった。

今、ロシアの行動と欧米の制裁がさらにそれを押し上げている。ジェフリーズ銀行は報告書の中で、「これは既存の問題の新たな急増である」と述べている。ロシアは、パラジウムやプラチナといった触媒コンバーターに不可欠な貴金属、アルミニウム、銅、ニッケルなど、あらゆる金属の主要供給国である。

供給が足りないバッテリー素材

ニッケルは、特に最新のNMC811(ニッケル8、マンガン1、コバルト1の割合)バッテリーにおいて、巨大なコスト要素となっている。ニッケルの供給に対する懸念から、ロンドン金属取引所(LME)の価格は3月7日に1トン当たり10万ドル(約1180万円)を超え、前週の金曜日の2万9130ドルから急騰。取引を一時停止する事態に至った。

リチウムもまた、EV用バッテリーの重要な要素であり、高騰している。需要が供給を上回っているのだ。コンサルタント会社グローバル・リチウムのジョー・ローリー社長は3月7日、「GM、フォードBMWメルセデス・ベンツは、野心的な計画を実現するのに十分なリチウムをまだ入手していない」とツイッターで述べた。

供給への不安からLMEのニッケル取引が一時停止(16日に再開)するなど、さまざまな混乱が生じている。
供給への不安からLMEのニッケル取引が一時停止(16日に再開)するなど、さまざまな混乱が生じている。

従来の自動車材料も値上がりしている。3月7日にはアルミニウムが過去最高値を更新し、3月8日にはステランティスのタバレスCEOが、現在約25%の輸入鋼材関税を引き下げるよう米国と欧州に求めた。

自動車メーカーは、消費者への影響を減らすためにコストを吸収しようと懸命に努力している。特に、EVへの移行は価格インフレを引き起こすからだ。その結果、サプライヤーとの間に緊張関係が生まれ、サプライヤーも自らの価格上昇に苦しんでいる。

ハンドル、エアバッグ、シートベルトなどの部品を製造するオートリブ社は1月、主に鉄鋼、繊維、プラスチック、その他金属などの原材料の値上がりが原因で、前四半期の利益が43%減少し、6000万ドル(約71億円)になったと発表した。同社のミカエル・ブラットCEOは、1月に行われたアナリストとの電話会見で、「2022年も引き続き、原材料によるかなりの逆風が吹くと予想している」と述べた。

自動車メーカーはもっと安価な原材料を探している。例えばバッテリーでは、テスラのようにニッケルフリーのLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーを使用するメーカーも出てきている。電気モーターの面では、出力密度は高いがネオジムなどの高価なレアアースを多く必要とする、永久磁石モーターに代わるものを各社が模索している。英国の調査会社IDTechExによると、ネオジムの価格は2019年から2022年1月の間に200%以上高騰しているという。

また、2021年にはEVに搭載される電気モーターの約83%を永久磁石モーターが占めるが、一部では他の技術に切り替わっているとのこと。BMWの第5世代駆動システムは、銅の巻線を用いた巻線モーターを採用している。IDTechExは報告書の中で、「材料価格の変動が続けば、近い将来、磁石を使わないマグネットフリーのOEMや一次請けが増えても不思議はない」と述べている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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