ロシアのウクライナ侵攻 多大な影響受けるドイツ車は? 日本市場にも波紋広がる
公開 : 2022.03.21 12:50 更新 : 2022.03.25 18:48
ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、生産の影響を受けるドイツメーカー/車種を調べました。
ウクライナ侵攻 自動車生産の影響大
2月24日に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、2月終わりから3月上旬にかけトヨタ/日産/メルセデス・ベンツ/フォード/ダイムラーなど、世界の自動車メーカー各社が相次いでロシアにおける事業停止を発表している。
この「事業停止」とはロシア国内工場での生産停止や部品や完成車の輸出などすべての事業を含んでいる。
経済制裁や抗議を目的としていることはもちろん、物流や金融面での混乱、そして海外工場からの部品供給不足が主な要因とみられる。
3月下旬となった今も工場の稼働や完成車輸出に関する再開のめどはほとんど立っていない。
そして、同時にウクライナ国内の部品工場が稼働停止または大幅減産していることから、ロシアでの事業停止と同等の大きな影響が自動車生産の現場で発生している。
簡単に言うと、ウクライナの工場で作られる部品が入手困難となっているため完成車の生産を停止せざるを得ないメーカーが次々と現れているという状況。
欧州での減産分を中国やアメリカの生産工場に移管するメーカーも増えている。
とくに大きな影響を受けるのは、BMW/フォルクスワーゲン/メルセデス・ベンツ/ポルシェなどのドイツ車メーカーだ。
半導体不足によって2021年には多くの自動車メーカーが生産調整に入っており、新車の納車が大幅に遅れている現状があるが、さらなる部品調達困難によって欧州の自動車製造現場は大混乱している。
ウクライナの工場で自動車生産に多大な影響を与えている部品とはどのような部品だろうか?
これは、主に「ワイヤーハーネス」という部品である。
自動車の内部を張り巡らされるように装備されるワイヤーハーネスは、一般的に目にする機会は少なく、なじみのないパーツかもしれないが、非常に重要で複雑な部品なのである。
なぜウクライナで生産されているのか
自動車用ワイヤーハーネスとは一言で言うと「電線の束」である。
人間でいえば血管/中枢神経系のような働きを持っている。
クルマへの搭載が増えている電装パーツ/センサー/演算装置に電源を供給しつつ、信号をやり取りする。
ボディシェルに統合される最初のコンポーネントの1つであり、多くの場合1台あたりのワイヤーハーネスは長さにして5-6000mという驚くもの。重量にして50-70kgもある。
ワイヤーハーネスによって作られるネットワークは、電子システムの生命線ともいえるもの。
自動車の組み立てラインで取り付けられるため後付けできるような部品ではもちろんなく、この部品の供給が遅れたり止まったりすると自動車を完成させることができない。
また、ワイヤーハーネスは車種それぞれに電装の内容や状態が異なるため、車種ごとに製造される必要がある。
他の工場で生産しているワイヤーハーネスを流用する、などの代替が難しい実情がある。
ではなぜ、ウクライナにワイヤーハーネスの製造工場が多いのか?
それは主に製造コストおよび流通コストの安さにある。
ワイヤーハーネスの生産は工程において多くが手作業となるため、人件費がかさむ。
同じものをドイツ国内で作ろうと思えば1時間あたり50ユーロ以上、ウクライナだと3ユーロ前後と大幅に安い。
ウクライナ以外にもハンガリーやポーランドなど製造コストが低い東欧の国々で多く生産されている。
ワイヤーハーネスの製造は生産性が低い典型的な労働集約型ビジネスなのだ。