「いまだに手作業で作る」ワイヤーハーネスは進化しているのか ウクライナ侵攻で供給不安、課題は?
公開 : 2022.04.05 06:25
自動車のワイヤーハーネスは、手作業で作るのが主流。進化はしないのでしょうか? ウクライナ問題で供給不安が叫ばれる中、その現状と課題を探ります。
電動化で一層複雑に ケーブルの束
クルマにはそれぞれに役割を持つ数多くの機器が搭載されているが、それらをつなぐのがワイヤーハーネスだ。
実は今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって、このワイヤーハーネスを生産する工場が相次いで稼働停止・閉鎖に追い込まれている。
そんな状況下で影響はどこまで広がっていき、ワイヤーハーネスは今後どう変わっていくのだろうか。
ワイヤーハーネスと聞いて「ああ、クルマで使われるケーブルの束だよね」と思い浮かべる人は多い。
しかし、それを自分のクルマであってもじっくり見ることはほとんどなく、せいぜいボンネットを開けたときにヘッドランプやバッテリー周辺で見るぐらいだろう。そのため、ワイヤーハーネスの重要性は意外に見過ごされがちだ。
実はワイヤーハーネスは、車両に搭載される機器を結ぶ、人に例えれば臓器を結ぶ血管・中枢神経のようなもの。これがなければ、いくら高性能な機器を搭載してもその機能を発揮することはできなくなる。
とくに近年は、走る、曲がる、止まるといったクルマの基本性能だけでなく、安全性や利便性を確保するために、数多くの電気・電子機器が使われる。
さらにモーターを動力として使用する電動化車両においては、バッテリーからモーターなどに高い電圧を安全・確実に供給する高電圧に対応したワイヤーハーネスが欠かせない。
つまり、ワイヤーハーネスはこれら電気・電子機器を確実に「つなぐ」役割を担い、電力を供給し、信号と情報を伝送するという重要な役割を果たしているのだ。
今回、ワイヤーハーネスの現状と今後について、製造メーカーの方に話を伺うことができた。
銅からアルミへ? メリットと課題
取材に協力していただいたワイヤーハーネスメーカーの役員によれば、「創生期は対象がエンジン点火とライトぐらいだったが、オーディオやエアコン、パワーウインドウ……と、電装品が増えるごとに増え続け、エンジンに電子燃料噴射が備えられて車内LAN“CAN-BUS”が登場すると、各所の状態を検知して車載コンピュータとの間で情報伝達する信号系回路としての役割を果たすまでに発展した」という。
デジタル化によって、一見するとワイヤーハーネスの効率化が図られているのかと思いきや、実際はまったく逆でその量はさらに増えているのだ。
車種にもよるが軽自動車クラスなら20kg以上、大型車になれば80kgにもなることも珍しくないそうだ。
そこで、その対策として進められているのがワイヤーハーネスの軽量化だ。
ワイヤーハーネスに使われる導体には長いこと「銅」が使われてきたが、実は銅は鉄よりも比重ベースで1割ほど重い。これがアルミになれば比重は3分の1。
しかもアルミは銅に比べて調達費用が安い上に、軽量かつ保守点検でも容易というメリットがあるという。
ただ、電気を通す性能では銅の方が優れているため、そのままではアルミの配電線を太くする必要がある。そのため、現状ではアルミを使うにしてもすべてではなく、メイン部分にのみ使う手法が採用されている。
2025年前後には銅からアルミへと移っていくとの予想もあるが、前出の役員によれば「導電率、加工性、屈曲性能、強度、耐食性など、銅に優位性がある状況に変わりはなく、期待されたほどのペースではアルミへの転換は進んでいない」そうだ。