「いまだに手作業で作る」ワイヤーハーネスは進化しているのか ウクライナ侵攻で供給不安、課題は?

公開 : 2022.04.05 06:25

もう1つの選択肢 光ファイバーの存在

また、各機器との通信で使うということなら、光ファイバーへの転換も1つの方法とされる。

光ファイバーは外乱ノイズに強く、大容量伝送が可能なことからシステムの効率化を高めるのにも大きなメリットがある。

ウクライナ侵攻が震源となるワイヤーハーネス問題だが、グローバル化が進んだ今では、日本の自動車メーカー/パーツメーカーの生産体制やサプライチェーンにも不安は広がる。
ウクライナ侵攻が震源となるワイヤーハーネス問題だが、グローバル化が進んだ今では、日本の自動車メーカー/パーツメーカーの生産体制やサプライチェーンにも不安は広がる。    トヨタ

とくに自動運転の実現へ向けた流れが加速していく中で、様々な機能を同時に制御していくのに最適な伝送システムと言っていいだろう。

電動化や自動運転の進化に伴い、受け入れられる環境は醸成されつつあるが、現状で採用が進んでいるのは欧州メーカーが中心。日本メーカーでは採用はあまり進んではいない。

ウクライナ侵攻 影響は?

こうした状況の中で、今回のウクライナ問題は日本での自動車生産にどう影響を与えるのだろうか。結論から言えば、決して小さくないと見るべきだろう。

ご存知のように自動車メーカーは今やグローバル企業であって、その生産・販売は世界中の様々な地域で行われてきている。

しかも、一昨年頃から影響が出始めていた半導体不足に加え、コロナ禍の蔓延でワイヤーハーネスの生産にも滞りが発生。これらの影響によってすでに自動車の生産は軒並み下方修正せざるを得なくなっていた。

そこにロシアのウクライナ侵攻が発生した。

サプライチェーン 転換期を迎えるか

ウクライナでワイヤーハーネスを製造してきた日本企業は住友電工やフジクラなどで、いずれも操業を停止中。住友電工はウクライナで生産する自動車部品の製造をルーマニアやモロッコへ移管することを決めたとの報道もあった。

現状では今後の見通しはまったく立たない状況にあり、この先も他国へ生産移管を目指す動きは続くものと見られる。

リサイクル化も歩み始めた。解体業者が取り外したワイヤーハーネスから、銅純度99.96%(新品銅とほぼ同様)の素材を生産することができ、トヨタや矢崎総業では再利用している。
リサイクル化も歩み始めた。解体業者が取り外したワイヤーハーネスから、銅純度99.96%(新品銅とほぼ同様)の素材を生産することができ、トヨタや矢崎総業では再利用している。    トヨタ

ただ、悩ましいのは、ワイヤーハーネスはすぐに代替生産ができないことだ。

ワイヤーハーネスではクルマごとに専用設計の完全オーダーメイドで生産されており、しかもその製造過程はほとんどが手作業による。

電線を束ねる工程はきわめて複雑であり、機械による自動化が難しいことが理由だ。

そのため、生産までには従業員教育が欠かせず、一定の教育水準と真面目さも伴っている必要がある。また、手作業であることは人件費が安いことも求められ、ウクライナをはじめ東欧はそうしたニーズにマッチしていた。

しかし、ロシアと欧米の緊張が高まっている中で、「今回のウクライナ問題は、同様の問題が他国、他のメーカーでも起こり得る(前出の役員)」ことが明確になったわけで、欧州での自動車生産を維持するためにも供給網の再構築は避けられない。

米・中の対立による中国に依存しない供給網の確立も急がれており、自動車メーカーを含め、サプライヤーは難しい問題に直面していると言っていいだろう。

記事に関わった人々

  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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