時代の最高速モデル 1980年代 フェラーリF40 エンツォが遺した323.4km/h
公開 : 2022.04.24 07:05
公道走行できる装備が付いたレーシングカー
今回ご登場いただいたのは、1990年式のフェラーリF40。ウォルフレース・ホイール社を創業したバリー・トレイシー氏がオーナーで、ラインオフして間もない頃から大切にしているという。
F40の象徴ともいえる、巨大なクラムシェルのエンジンカバーを持ち上げると、2基のインタークーラーが目に飛び込んでくる。公道走行できる装備が追加されたレーシングカーであることが、まじまじと伝わってくる。
長さの異なるアッパーとロワーのウイッシュボーンの先で構える、幅335の17インチ・タイヤの存在感が半端ない。バンク角90度のV8エンジンは、キャビンを仕切るバルクヘッドへ寄り添うように低い位置へマウントされている。
クルマ好きなら、永遠に眺めていられそうな機能美だ。でも、今回は実際に走らせるためにサーキットへ持ち込んでいる。
当時最先端だったカーボン製のサイドシルをまたぎ、サベルト社製の深いバケットシートに腰を落とす。穴開き加工されたアルミニウムのペダルは、わずかに右側へオフセットしている。
F40は、すべて左ハンドル。若干腕を伸ばす必要があるものの、ドライビングポジションは概ね快適といっていい。
小さなメーターパネルには、スピードとタコメーターのほかに、水温計とターボブースト計が秩序正しく並ぶ。ダッシュボード側には、油温と油圧、燃料計。運転の集中を邪魔するものは、基本的に一切ない。
最も鮮烈な体験を与えてくれるクルマ
キーをひねると、V8ツインターボ・エンジンはすぐに目覚める。予想以上に洗練されている。クラッチペダルは重く、突然つながる。充分な加速力を得るには、高めの回転数が求められる。
パワーステアリングは備わらず、スピードが上昇してもステアリングホイールはさほど軽くならない。しかし、操ることが楽しい。ハイレシオで、生々しい感触が気持ちいい。
コーナーを探りながら、徐々に通過速度を高めていく。ドライバーの自信も徐々に高まっていく。
安全そうな場所で485psを解き放つ。ターボラグは、想像していたものより遥かに小さい。日本のIHI社製ターボが2基、3000rpmを超えた辺りからブースト圧を高めていく。
3800rpm前後から最大1.1barで過給されるようになり、呆れるほどの加速力が放たれる。サウンドは、V8エンジンを積んでいた時代のF1のようでもあり、アクセルオフではランサー・エボリューションより大きいウェイストゲートの悲鳴が響く。
筆者の印象では、今回の10台で最も鮮烈な体験を与えてくれるクルマがこれだ。マクラーレンF1を除いて。
フェラーリF40を運転するには、それなりの勇気が求められる。1980年代のマラネロは、間違いなく軟化なんてしていなかった。
協力:ウィル・ブラウン、英国フェラーリ・オーナーズクラブ
フェラーリF40(1987〜1992年/欧州仕様)のスペック
英国価格:19万3000ポンド(1987年時)/175万ポンド(約2億8000万円)以下(現在)
生産台数:1315台
最高速度:323.0km/h
0-97km/h加速:4.1秒
車両重量:1235kg
パワートレイン:V型8気筒2936ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:485ps/7000rpm
最大トルク:58.7kg-m/4000rpm
ギアボックス:5速マニュアル