時代の最高速モデル 1990年代 マクラーレンF1 3シーターにNA V12で386.4km/h

公開 : 2022.04.24 07:06

薄れることのないF1の堪能経験

1993年にロン・デニス氏は「クルマを正しく操っているのが自分だと知ることが、喜びのすべてです」。と、マクラーレンF1についてコメントしている。その喜びこそ、エキサイティングさの原点といえる。

実際、トランスミッションはドライバーが操る6速マニュアル。パワーステアリングや、ブレーキアシストも備わっていない。

マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)
マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)

今回の企画にご登場願ったクルマは、GTRレーサーを公道走行可能な状態に改造し、パパイヤ・オレンジで仕上げられている。あいにく、筆者は運転できなかったが。

マクラーレンF1の生産数は、僅か106台。1990年代を代表するスーパーカーとしての地位だけでなく、その貴重性が、価格を大幅に釣り上げた。新車時の30倍以上に。保険会社は、こんな高額なクルマの運転を簡単には許してくれないのだ。

しかし2年前に別のコースで、リアのナンバープレートが熱で変形してしまうほど、じっくり長時間堪能させてもらった経験がある。その記憶は深く脳裏に刻まれ、今でも薄れることはない。

大排気量のV型12気筒エンジンは、スーパーカーにありがちなヒステリックなひと吠えなしに目覚る。驚異的な滑らかさで、鋭く吹け上がる。回転数の上昇とともに、名ユニットの1つらしく、ドラマチックさが高まっていく。

アクセルレスポンスは極めて線形的で、すべての操縦系の反応具合とも一致。シフトレバーのタッチも良く、ステアリングホイールは旋回時の負荷が高まるほど重みが増していく。フィードバックも濃厚だ。

予想を超える速さを残したマクラーレンF1

剛性に長けたカーボンファイバー製のタブは、現代でも通用するシャシーレスポンスを叶えている。ボディは適度にコンパクトで、反応は即時的。ロータス・エリーゼにも近いと思わせるが、そこに、とてつもないパワーが組み合わされている。

改めて確認してみると、マクラーレンF1はフォルクスワーゲン・ゴルフより軽く、当時のホンダNSXフェラーリ348 GTBの合計出力よりパワフル。パワーウエイトレシオを見れば、ブガッティ・シロンを上回る。その加速力たるや、凄まじいのひとことだ。

マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)
マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)

最高速度にこだわりのなかったマクラーレンだが、フォルクスワーゲンがドイツに保有するエーラレッシエン・テストコースへ、1998年にF1を持ち込み走らせている。わずかにレブリミットを高めた以外、ノーマル状態だったという。

その時点で、1990年代の最速モデルは時速217マイル(349.2km/h)を残したジャガーXJ220だった。だが、フォーミュラ1ドライバーのアンディ・ウォレス氏が時速240.1マイル(386.4km/h)を達成。余裕の差で、記録を塗り替えてみせた。

それまで、ジャガーXJ220を超える速さを持つ公道用モデルは発売されないのでは、と考えるモータージャーナリストも少なからずいた。その予想が間違いだったことを、マクラーレンF1は軽々と証明したのだった。

協力:トーマス・ラインホルド、マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ

マクラーレンF1(1992〜1997年/欧州仕様)のスペック

英国価格:63万4500ポンド(1992年時)/2000万ポンド(約32億円)以下(現在)
生産台数:106台
最高速度:386.4km/h
0-97km/h加速:6.2秒
車両重量:1138kg
パワートレイン:V型8気筒6064cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:636ps/7000rpm
最大トルク:66.1kg-m/4000-7000rpm
ギアボックス:6速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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