EV充電問題 バッテリー交換は充電スタンドの代わりとなるか? 欧州で再注目

公開 : 2022.04.09 06:05

莫大な建設・維持コスト 現在は補助金頼り

もちろん、誰もが納得しているわけではない。3月に英国で開かれた自動車業界団体主催のイベントSMMT Electrified 2022で、キア英国事業部のCEOであるポール・フィルポットは、「バッテリー交換は構造を複雑にすると思います」と聴衆に語りかけた。新型キアEV6の10~80%の充電にかかる時間がすでに18分であることを引き合いに出し、「充電時間は短縮されるでしょう」と述べている。

充電器メーカーは当然ながら、バッテリー交換に否定的だ。BPパルスの渉外部長であるトム・キャロウは、最近、「バッテリー交換はスケーラブルではない」とツイートしている。

交換用の予備バッテリーの確保など、必要とされるコストは小さくない。
交換用の予備バッテリーの確保など、必要とされるコストは小さくない。

確かにコストはかかる。昨年発表されたスウェーデンの研究では、中国に交換ステーションを建設するのに、バッテリーや土地のリース代などを含めて77万2000ドル(約9475万円)、それに対して従来の充電ステーションは30万9112ドル(約3790万円)かかるとされている。

ニオの交換ステーションでは、現在13基のバッテリースロットを用意しているが、これを補充するためにバッテリーを追加生産する必要がある。オウルトンの第3世代ステーションは28基のスロットを用意しているため、さらに大きな投資が必要である。

中国では、彼らに救いの手が差し伸べられている。政府はEVに対する補助金を削減したが、ニオに対しては交換方式を普及させるために引き続き補助金を投入している。

中国に特化した自動車コンサルタント会社ZoZoGoの代表であるマイケル・ダンは、「地政学上の重要な理由」があると言う。「中国の指導者たちは、米国に直接対抗する新技術のグローバル・スタンダードを打ち立てるという野心を隠そうとはしない。そして、ニオとCATLの挑戦を補助金やインセンティブによって公然と支援し、高額の先行投資を相殺しようとしているのです」

また、中国政府は主に国営の自動車会社を説得し、技術提携させるのが得意だ。ニオの交換方式は、テスラのスーパーチャージャー・ネットワークよりも優れたセールスポイントを持っているが、おそらく収益を上げるためには、他の企業にプラットフォームを買ってもらう必要があるだろう。欧米企業が直ちに買い手となる可能性は低いだろうが、中国企業と提携関係にある自動車ブランドは決して少なくない。

ラクラク交換 ガソスタより便利な一面も

冒頭で紹介したフランク・スカルパスは、考えうる1つの顧客として、自身の愛するジャガーの名を挙げている。バッテリー交換だけでは、彼はニオを買おうとは思わないだろう。「コンセプトはいいと思います。ジャガーがこのシステムを採用すれば、間違いなく乗り換えるでしょう」と彼は言う。

バッテリーは誰のもの?

ニオのバッテリー交換システムは、どのように利用されるのだろうか。ノルウェーでは、利用者はバッテリーを月約2万8000円(容量100kWhの場合)でリースする必要がある。もちろん、ニオのEVに乗っていることが前提だ。

ニオは中国の新興企業だが、欧州にEVを導入するなど積極的な拡大路線を歩んでいる。
ニオは中国の新興企業だが、欧州にEVを導入するなど積極的な拡大路線を歩んでいる。

このバッテリーリースにより、車両価格が約120万円引き下げられ、月2回の交換が無料となる。近日発売予定の75kWhバッテリーはさらに安価に設定される。また、メルセデス・ベンツEQSのライバルである高級セダン「ET7」などの新型車に適合する150kWhも準備中であるという。休日の計画を立てる際には便利だろう。

交換ステーションの利用方法は?

ノルウェーでは、車載ナビでステーションまで移動し、近づくと自動的に利用申込みが行われる。マークされたエリアに駐車し、車載タッチスクリーン上のアイコンを押すと、クルマは自動的にバックを始める。さらにローラーでクルマを整列させ、マグネットで固定し、ジャッキアップする。

続いて、バッテリーを固定している10本のボルトを外し、別のジャッキで降ろす。事前に最大出力60kWで充電した新しいバッテリーをスロットから取り出し、クルマに装着。新しいファームウェアがダウンロードされていることを確認すれば、そのまま走り出すことができる。

現在、毎月2回の無料交換が可能で、その後1回あたりの料金は100クローナ(約1300円)となっている。

時間を計測すると、筆者が車載スクリーンの「GO」ボタンを押した瞬間から、全行程を5分57秒で終えた。クルマから離れる必要は一切なかったので、ガソリンスタンドより一枚上手だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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