大企業に挑む野心的起業家 ヘンリック・フィスカー EVに見出した「勝機」とは

公開 : 2022.04.09 06:25

挫折を味わった起業家 オーシャンにかける野望

58歳のフィスカーは、2000年代初頭にアストン マーティンのチーフデザイナーとして英国で脚光を浴びた。その後、中国の支援を受けてバルメットが製造し、自身の名を冠した「フィスカー・カルマ」というレンジエクステンダーEVの設計者としても知られるようになる。しかし、フィスカー社はバッテリーサプライヤーの倒産に伴い解散。以降、フィスカーは数年間にわたり少量生産車のコンセプトや船舶の設計に取り組み、2016年に低コスト・長距離・大量生産のEVを作る計画を打ち出した。

「EVといえば、都市向きの小型車か10万ポンド(約1600万円)以上の高級車のどちらかだと思われていました。テスラを除けば、フォードもゼネラルモーターズもフォルクスワーゲンも、誰もEVを大量生産していなかった。つまり、部品の大量仕入れでわたし達より優位に立てるところがないのです。そんなわたし達が、大企業よりはるかに速く新型車を作り、価格も安くする巧妙な方法を見つけたらどうでしょう?」

フィスカー・オーシャン
フィスカー・オーシャン

それは、オーシャンのような比較的大型のモデルを、どうすれば安く作ることができるのか、という大きな問いかけである。フィスカーは、スケールメリット(作れば作るほど効率的になるはず)、業界全体でのバッテリーコストの着実な低下、購入者が気づかない分野でのコスト削減を挙げている。

わかりやすくコスト削減になっているのは、「フランク(frunk)」を設けないという判断だ。フランクとは、従来ならエンジンが積まれている車体前部の空きスペースをトランクにしたもので、多くのEVで採用されている。これを省くことにより、キャッチ、シール、パネル取り付け作業が不要になるのだ。

フィスカー社の調査では、EV購入者(その多くはテスラオーナー)がテールゲートを好んで使用することが示され、この判断を裏付けている。また、ドイツ製の高級車では車載機能の70%が「一度も使われていない」ことを示唆する調査結果も出ているという。コスト重視のフィスカーのEVが、例えばその機能の40%を捨てたとして、誰がそれに気づき、気にかけるだろうか?

また、フィスカー自身は、EVが音の静けさやスムーズさ、性能などさまざまな面で収斂していく中で、個性的なデザインがますます重要になると確信している。

持続可能性への意識が高まる中、本当に良い自動車デザイン、つまり「非常にシンプルで、優れたプロポーションとグラフィックが調和しているもの」が、時代を超えて賞賛されることを、購入者は理解するようになるだろう。モデルの進歩は、車載ソフトウェアの進歩によって示されるようになるだろう。つまり、「ノーズジョブ」は過去のものになりつつあるのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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