時代の最高速モデル 2010年代 ブガッティ・シロン・スーパースポーツ 300+ 大改良で490.5km/h

公開 : 2022.05.01 07:05

リミッターカットで490.5km/h

ところが、ブガッティはこの数字へ満足しなかったらしい。更に能力を高めたシロン・スーパースポーツ 300+を発表する。

スタイリングを担当したのは、ブガッティのフランク・ヘイル氏。タイヤメーカーのミシュランと、自動車エンジニアリング企業のダラーラ社とも手を組んだ。

ブガッティ・シロン(欧州仕様)
ブガッティ・シロン(欧州仕様)

ボディは空力特性を改善するため、テール部分を約250mm延長。空気抵抗を減らす幅の細いリアウイングと、レーザー光で制御される車高調整システムも採用された。エンジンはチューニングを受け、1600psまで最高出力は引き上げられた。

そして、最高速度の更新に挑んだのがアンディ・ウォレス氏。リミッターは外され、ロールケージと複数の計測機器が搭載されたマシンで、時速304.77マイル(490.5km/h)を達成したのだ。

今回、トム・ハートリー・ジュニア社にお持ちいただいたのは、通常のブガッティ・シロン。狂気のすべてのパワーを解き放てる、2本目の鍵はお預けだった。とはいえ、試乗した小さなプレストウォールド・サーキットでは、その鍵があっても無意味だろう。

運転席に腰を下ろすと、筆者が見た中で最も豪華なステアリングホイールが迎えてくれた。フェラーリのマネッティーノ風コントローラーが、スポークの下に追加されている。エンジンのスタートスイッチは、レザーで仕立てられたセンターハブの下側にある。

センターコンソールは、ヴェイロンと同様にシンプル。エアコンの操作ノブが優雅に並び、デュアルクラッチATのシフトノブが手前側で存在を主張している。

ヴェイロンより4基のターボを召喚しやすい

シロンは間違いなく速いが、表現しようがない。既に息を呑むほど速いヴェイロンより500psもパワフルなのだから、それより上の言葉が見つからない。

3速に入れ、50km/hからローリングスタートでフルスロットルを与えてみる。リアタイヤが僅かにスピンしかける。シフトアップを数度こなすと、ストレートエンドまでに240km/hは超える。コースの距離に限りがあって良かった。

1920年代の代表、ヴォグゾール30-98 OEタイプと2010年代の代表、ブガッティ・シロン
1920年代の代表、ヴォグゾール30-98 OEタイプと2010年代の代表、ブガッティ・シロン

運転した印象としては、ヴェイロンより4基のターボを召喚しやすい。更に高まった最高速度に応じた、低回転域でのたくましさがある。

何より心が打たれたことは、シロンの突出した能力を匂わせるようなドラマチックさが、まったくないこと。容赦のない怒涛のパワーが、機械的な存在感が薄いまま、さらりと放たれるのだった。

1920年代からの100年間で、最高速度はヴォグゾール30-98 OEタイプの162.0km/hから3倍以上へ高められた。2020年代に名を残すのは、純EVなのだろうか。

内燃エンジンの頂点といえるW16気筒を積む、ブガッティ・シロン・スーパースポーツ 300+。2010年代の極められた自動車技術を象徴するものとして、これ以上ないスーパーカーだといえるだろう。

ブガッティ・シロン・スーパースポーツ 300+(2019年/欧州仕様)のスペック

英国価格:310万ポンド(約4億9600円)
生産台数:30台
最高速度:490.5km/h
0-97km/h加速:2.3秒
車両重量:1138kg
パワートレイン:W型16気筒7993ccクワッド・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:1600ps/4200rpm
最大トルク:162.8kg-m/2250-7000rpm(シロン・スーパースポーツ)
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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