空冷の水平対向12気筒+伝説のガルフカラー ポルシェ917K ル・マン連勝マシンに迫る 後編

公開 : 2022.05.07 07:06

917の怒涛の勢いに飲み込まれる

軽量なバルサ材から削り出されたシフトノブを、右へ傾ける。それだけでもスリリング。重いクラッチを踏む左足を徐々に緩めると、かなり手前でつながる。緊張感のある振動が全体を襲う。

エンジンストールすることなく、アトウッドが見守るピットレーンを後にした。そしてすぐさま、917Kの怒涛の勢いに飲み込まれる。地獄の体験か、天国か。

ポルシェ917K(1971年)
ポルシェ917K(1971年)

スピードを高めずとも、特徴的なドライビングフィールから、特有のキャラクターを感じ取れる。ボディの前端に座っているような感覚がある。ステアリングホイールは驚くほど軽く、感触が濃く、コーナーの頂点を完璧に狙える。

とっさにカウンターステアを当てるのも難しくない。917Kの圧倒的な動力性能に、俊敏性が組み合わされている。路面が変化しグリップ力も変わると、アンダーステアへ推移していく様子が、手のひらから感じ取れる。

素早くアクセルペダルを煽れば、テールは喜んでスライドし始めそうだ。だが、917Kの中心部に搭載された、モンスター級の水平対向12気筒のパワーとウエイトを想像する。そして、天文学的な価値も。

ポルシェ・ミュージアムのスタッフは、高めの回転数を保つように話していた。それでも、フラット12は低い回転域から扱いやすい。僅かにアクセルペダルを傾けるだけで、攻撃的に加速する。半世紀も前のレーシングカーとして、驚かされる。

優勝が信じられないほど熾烈な体験

右足へ力を込めると、極めて鋭く回転数が上昇。水平対向特有の低音がメインのサウンドは、8000rpmへ近づくほどに美しく滑らかな音色へ変化していく。エンジンのバランスの良さも伝わってくる。

シフトノブへ手を伸ばし、トリッキーなマニュアルを、ミスシフトしないよう丁寧に操る。レバーの動きは軽いが、つながるまでしっかりゲートへ押し込む必要がある。クラッチペダルを踏むと、一瞬フラット12の重奏が静まり、吸気ノイズが前面に出てくる。

ポルシェ917Kと、1970年のル・マン24時間レースで優勝を掴んだリチャード・アトウッド氏
ポルシェ917Kと、1970年のル・マン24時間レースで優勝を掴んだリチャード・アトウッド氏

サーキットの途中で4速へ入った。加速力に間違いはないが、ブレーキペダルはストロークが長く、感触がスポンジー。制動力は、パワーに対して充分とはいえないようだ。

ポルシェ917Kを全身で味わう。神経質さも伝わってくる。ここで運気を使い果たしたくはない。筆者が満足するペースで、ソノマ・レースウェイを周回した。バケットシートへ、身体を押さえつけながら。

ピットへ戻ると、アトウッドが笑顔で立っていた。筆者がどう感じたのか、聞きたそうにしている。

伝説的なポルシェ917Kをドライブした経験を持つ、1人になれたことがうれしい。ワープしたような、不思議な時間だった。1970年にアトウッドとヘルマンが24時間を戦い、優勝を掴み取ったという事実が、信じられないほど熾烈な体験だった。

協力:リチャード・アトウッド氏、ジィズ・ヴァン・レネップ氏、ポルシェAG

記事に関わった人々

  • 執筆

    ベン・バリー

    Ben Barry

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マーク・アーバノ

    Marc Urbano

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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