兄弟エンジンの軽量スポーツ RRのアルピーヌA310 x MRのロータス・ヨーロッパ 後編
公開 : 2022.05.08 07:06 更新 : 2022.08.08 07:11
MTの感触を忘れるほど気持ちが良い
ギア比は長めで、活発に走らせるには高速道路でも4速が良い。ヨーロッパとは異なりシフトフィールが正確で好感触だから、頻繁に変速が必要だとしても不快には感じない。リア寄りの重量配分らしく、時々むずがるような仕草を見せる。
5速MTは基本的に2台で共通だが、エンジンの前か後ろかで、リンクの長さが変わる。ミドシップのヨーロッパの方が長く、微妙な調整が必要になる。だとしても、走りは爽快。
ストレートでもカーブでも、冴えないシフトフィールなど忘れてしまう。エンジンは鋭く吹け上がり、一気にクラッチをつなげばブラックマークを残しながら、野蛮な加速も披露する。120km/h位までは、フェラーリ・ディーノ 246のように勢いがある。
今回のエンジンはリビルドされたばかりで、高めの回転域までは許されていない。甘美なサウンドを楽しめるから、強い自制心が求められる。低回転域でも、アルピーヌのように粘り強い。早めのシフトアップも受け入れてくれる。
ヨーロッパの低い着座位置が、一層スピード感を高める。機敏な走りに、周囲の交通が邪魔にすら思えてしまう。
現代的なクルマと比べるとタイヤは驚くほど細いが、グリップ力は極めて高い。軽くダイレクトな操舵感と相まって、意のままにヨーロッパの進路を決めていける。
アンダーステアもボディロールも生じない。タイトコーナーでも、ブレーキングの必要性を感じない。路面が荒れていても構わない。乗り心地も、うれしいほどに滑らかだ。
欲しいと思わせるA310の訴求力
操縦性では、A310もヨーロッパへ肉薄している。しかし特性が異なり、高速域へ重点が置かれた印象。ロックトゥロックが2.5回転のステアリングは、初め重いものの、速度の上昇とともに軽くなる。
太めのリムへ、正確な情報が伝わる。身軽でありながら、乗り心地はグランドツアラー・ライク。ブレーキはヨーロッパと同様に前後ともにディスクで、効きは優れたスポーツカー級だ。
A310も公道で必要とされる以上に、清々しいほど小気味よく旋回する。フラットでニュートラルで、ヒヤリとする瞬間もほぼない。エンジンは意図どおりにパワーを生み出し、ブレーキの出番も少ない。
コーナリングスピードを高めていくか、急にアクセルペダルを戻すと、アンダーステアからオーバーステアへ切り替わる。その瞬間、ドライバーが試される、リアが重いという物理の法則が待っている。
ロータス・ヨーロッパ・スペシャルは、いつくかの弱点を上回る天才的な能力を持ち合わせている。ドライバーの若い気持ちを、永遠に保ってくれるようなクルマだ。筆者の心もくすぐってくれた。
アルピーヌ・ルノーA310は、近づきやすく奥行きのある、エキサイティングなスポーツカー。A310は英国へ正規輸入されなかったが、6灯のライトが並んだフロントマスクがゴージャスで強い印象を残してくれた。
シトロエンSMにも通じる、1970年代のシックさとスポーツカーという組み合わせは、唯一無二。素晴らしいヨーロッパ・スペシャルとは別の訴求力がある。欲しいという気持ちを抱かせるほど。
協力:ジャスティン・バンクス社、UKスポーツカーズ社