フラッグシップの出来は? 「DS 9」日本試乗 前輪駆動セダンの魅力とは

公開 : 2022.04.21 11:25  更新 : 2022.04.23 12:06

内装 DSの中でも格が違う

インテリアはDS 7クロスバックに似るが、インパネは宝飾品を思わせるパールトップステッチが走るレザーで全面が覆われるなど、仕立ては確実に格上。

加えてもちろん、SUVより明確に低いヒップポイントが、見える景色を別物としている。

DS 9オペラの前席内装。ナッパレザーシートは、腕時計のベルトを模したデザインに。
DS 9オペラの前席内装。ナッパレザーシートは、腕時計のベルトを模したデザインに。    宮澤佳久

ピラーが樹脂ではなく、アルカンターラ張りになっていることにも気づいた。ひんぱんに視線に入る部分ではないが、こういう細かい部分のこだわりが、特別なクルマであるという印象をもたらすものだ。

エクステリアと共通しているのは、インパネ中央のアナログ時計やセンターコンソールのスイッチなど、ディテールを華やかに見せつつ、基本はゆったりした曲線でシンプルに描き、過剰な演出を控えていること。アンビエンスライトも優しい色調で、派手にしないところに品の良さを感じる。

SUVの台頭で、セダンはドライバーズカーとしての意味合いが強まっている。その結果、ドライバーを囲むような造形など、エモーショナルな演出が目立つようになった。そんな中でDS 9の運転環境は、Eセグメントでは異彩を放っていると感じた。

乗り心地/後席について

リアシートは身長170cmの自分なら、楽に足が組める。Eセグメントのセダンとしてはかなり広い。

前輪駆動のメリットを教えられるし、かつてのC6とほぼ同じ、2895mmのホイールベースも効いている。低くて長い空間は、SUVが主流になった今では貴重でもある。

DS 9オペラの後席内装。長いホイールベースのおかげで足が組める。
DS 9オペラの後席内装。長いホイールベースのおかげで足が組める。    宮澤佳久

このボディサイズにして車両重量が1640kgに収まっていることも、前輪駆動ならではだ。なので225ps/30.6kg-mをもたらす1.6Lターボと8速ATによる加速は、力強いとは言えないものの充分。

音は最近のエンジンとしては低音で、クラシックDSの4気筒を連想させた。

サスペンションはDS 7クロスバックに続いて、アクティブスキャンを装備する。フロントガラスに装着したカメラが前方路面の凹凸を識別し、ショックアブソーバーの減衰力を電子制御することで、快適な乗り心地と走行安定性を両立するもので、コンフォートモードを選択したときに作動するという。

その効果はDS 7クロスバック以上で、ゆったりした周期の揺れがなんとも心地よい。背が低い分、サスペンションチューニングの自由度が大きいのだろう。セダンなので、リアからのノイズやバイブレーションが遮断されていることもわかる。

SUVでは、こうはいかない

極め付けは目の前に広がるエンジンフード中央の太いモールだ。

昔はいくつもの車種にこうした装飾があったが、最近はロールス・ロイスベントレーなどのラグジュアリーブランドぐらい。他のEセグメントとは格が違うことを教えられた。

DS 9オペラ(ノアール ペルラネラ)
DS 9オペラ(ノアール ペルラネラ)    宮澤佳久

この眺めを目にしつつ、同じフランスのハイエンドオーディオブランド、フォーカルの14個のスピーカーから流れてくる良質なサウンドに耳を傾けながら、コンフォートモードで車体の揺れを楽しみながらクルージングしていると、後輪がかなり遠くにあることが伝わってくる。

この感覚もまた、クラシックDSやC6を思わせるものだ。

スタイリングはオーセンティックかもしれないが、そこに仕込まれた数々の技はDSブランドのフラッグシップにふさわしいし、この世界を成立させるにはセダンでなければならなかったことが理解できた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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