全長5m超の2ドアEV ロールス・ロイス 新型スペクターは次世代の「ファントム・クーペ」に

公開 : 2022.04.27 06:05

EV時代におけるクルマづくり

アヨウビは、スウェーデン・アルジェプローグで行われた初期テストは、まずプロトタイプが期待通りに機能することを確認し、次に来るテストのためのパラメーターを設定することだったと語る。「このクルマは歩くことを覚えたばかりです」

この初期テストでは、窓やドア、冷暖房、ゴムシールなどの基本部品が過酷な環境下で正常に機能するかどうかを確認する作業が行われた。しかし、アヨウビは、「静寂こそ贅沢。このような条件下で性能を発揮するだけでなく、静かに機能する必要があります」と話した。

ロールス・ロイス・ファントム・クーペ
ロールス・ロイスファントム・クーペ

また、開発中の「電気バックボーン」によってコネクティビティも大幅に向上しているという。通常の高級車が長さ約2000mのケーブルを使用しているのに対し、スペクターには合計7000mのケーブルが使われているという。電気システムの強化により、最新のコネクテッド技術に対応する狙いだ。

「ハードウェアとソフトウェアのインテリジェンスが高度に統合されているのです」とアヨウビは言う。「システムはインテリジェントです。マルチチャンネル、マルチコントロール・システム、そして、これらの競合システムの動作を調和させるアルゴリズムを開発しました」

「このクルマには、通常の25倍もの『アルゴリズム』が搭載されています。1000の高度な機能と2万5000のサブ機能、14万1200の送受信機能があります。それぞれの許容誤差は25ミリ秒で、失敗は許されません」

これは、「ロールス・ロイス3.0」と呼ばれる、来るべきEV時代における同社の自動車開発アプローチだ。

アルジェプローグでの開発作業はまもなく終了し、続いてフランス・ミラマスでの高速走行試験、ドバイや南ヨーロッパでの高温試験、ミュンヘンや英国本社での試験に移行する予定だ。年末には再びアルジェプローグでテストを行い、「プロトタイプがどれだけ成長したかを確認する」とのこと。

30台以上のプロトタイプが製造され、合計で約250万kmに及ぶテスト走行が行われる予定だ。

ミュラー・エトヴェシュCEOによると、ロールス・ロイスはすでにスペクターの注文を受け付けているという。

どこまで「静寂」を求めるか

新型スペクターの開発でまだ議論が続いている要素の1つは、歩行者に存在を知らせる「音」をどのように出すか、そして車内をどれだけ静かにするかということだ。

ロールス・ロイスといえば、静かで落ち着きのある走りが特徴だが、エンジンも排気系もないスペクターでは、それを次のステージへ進化させるはずだ。しかし、室内の「完全な静寂」は実現可能ではあるが、望ましいものではなかったという。

ロールス・ロイス・スペクターのテスト車両
ロールス・ロイス・スペクターのテスト車両

アヨウビは次のように語っている。

「騒音に関わりがあるのは、排気音、エンジン音、風切り音、そしてタイヤ音です。このうち、最初の2つは排除できます。お客様は、本当の意味での静寂を得ることもできる。しかし、人は完全な無音状態ではいつまでも耐えられないという問題があります。最低限のノイズが必要なのです」

残る風切り音については、可能な限り低減するための空力開発、タイヤ音についてはタイヤメーカーとの協議が進められている。

アヨウビは、ロールス・ロイスの要求によって「タイヤサプライヤーが我々と仕事をするのを嫌がるようになった」と冗談を飛ばした。

「要求が厳しいんですよ。タイヤは路面との唯一の接点です。燃費、防音、安全、ブレーキ、動力性能など、タイヤには非常に多くのことが要求されます。そこへロールス・ロイスがやってきて、『まだ完成度が足りない』と言うんですから」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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