スポーティ・フォーマル ラゴンダV12 WO.ベントレーが手掛けたV型12気筒 後編
公開 : 2022.05.15 07:06
戦前のサルーンとは思いにくい走り
自社製のG80型4速MTは、1速より上に回転タイミングを合わせるシンクロメッシュが備わり、変速しやすい。シフトレバーは時々引っかかるものの、ギアノイズは静かだ。
1938年のAUTOCARでは、160km/hでの走行テストも実施されていた。当時の編集者は、ラゴンダV12をとても気に入ったようだ。
発進時以外、1速は必要ない。2速で殆どの加速をまかなえる。スピードが充分に乗ったら、4速のトップギアを選ぶ。適正に変速をすれば、戦後のジャガーMk VIIのような加速力を引き出せる。戦前のサルーンとは思いにくい。
少しクルマに慣れてくると、乗り心地とコーナリングにも感心する。幅の細い18インチタイヤはワダチに沿おうとするものの、操縦性は1950年代のクルマ並み。ステアリングのレシオがスローだが、全体としては扱いやすい。
その気になれば、リアタイヤをスライドさせるだけのパワーもある。巨大な4スポーク・ステアリングホイールの感触はダイレクトで、姿勢を立て直すことも難しくない。
ペダルの距離が近く、クラッチとブレーキを一緒に踏んでしまう。クラッチペダルは重すぎず、つなぎやすい。だが、ツイン・マスターシリンダー付きの大きなドラムブレーキは、効きが弱い。ビッダルフが話したとおりだ。
直線なら予想通りには止まるものの、ペダルのストロークが長く、レスポンスも安心感が乏しい。壮大なV型12気筒エンジンが収まるボンネット越しの視界が素晴らしいだけに、ブレーキが残念でならない。
WO.ベントレーとラゴンダの最高傑作
エンジンは4500rpm以上までスムーズに回り、85才のクルマとは信じられない勢いで一般道を突き進む。1930年代に、多くの人を驚かせたことは想像に難くない。ラゴンダが、現代までクラシックとして価値を高めてきた理由も理解できる。
技術者が理想を追求しすぎると、成功ではない結果に至ることもある。ラゴンダV12の製造台数は189台に留まった。第二次大戦の勃発も影響していたとはいえ、車両価格や構造の複雑さが、ユーザーを遠のけたことは間違いないだろう。
ラゴンダV12は1940年まで製造が続き、主に北米市場へ輸出された。1939年のニューヨーク・モーターショーでお披露目された時は、ラゴンダV12 ラピードは展示車両で最も高価な1台だった。185km/hという最高速度は、最速でもあったはず。
その後、ラゴンダのV型12気筒エンジンは第二次大戦でも用いられた。爆弾発射の動力源として、海軍で100基が稼働したという。
戦前に作られたラゴンダV12は、WO.ベントレー氏の最高傑作の1台と評して過言ではないだろう。ラゴンダ社の量産モデルとしても、最高の1台だった。
長年、運転したい夢のリストに名を連ねていた、ラゴンダV12。その体験は、期待を上回るものだった。クラシックカーの世界では、このクルマに16万5000ポンド(約2755万円)の価格が付いているが、実際はそれ以上価値があると思う。これもまた珍しい。
協力:ヴィンテージ&プレステージ社
ラゴンダV12(1938〜1940年/英国仕様)のスペック
英国価格:1200ポンド(1938年時)/16万5000ポンド(約2755万円)以下(現在)
製造台数:189台
全長:4877mm
全幅:1880mm
全高:1600mm
最高速度:165km/h
0-97km/h加速:12.9秒
燃費:3.9-4.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:1981kg
パワートレイン:V型12気筒4480cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:182ps/5500rpm
最大トルク:−
ギアボックス:4速マニュアル