猛反発 法定検査の延長は家計の助けになる? 英政府提案に業界団体「道路が危険になる」と批判

公開 : 2022.04.28 18:45

英国のMOT(自動車法定検査)の間隔延長を巡って、自動車業界団体は政府に対し強く反発しています。

検査期間の延長案 家計の負担軽減図るが……

車検制度に相当する英国のMOT(法定検査)の改定を巡って、国内で議論が巻き起こっている。現在、英国を走る自動車は新車登録から3年以降、MOTを毎年1回受けなければならないが、これを2年に1回にしようという動きが政府内で見られる。

テレグラフ紙によると、ボリス・ジョンソン首相が家庭への経済的負担を減らすために閣僚にアイデアを募ったところ、MOTを隔年で実施するという案が提示され、議論が行われたという。

英国では、新車登録から3年経過したクルマは毎年MOTを受け、認定証を更新しなければならない。
英国では、新車登録から3年経過したクルマは毎年MOTを受け、認定証を更新しなければならない。

英国の自動車業界団体はこの提案に対し、「道路をより危険にする」可能性があると反発している。

もしこの案が可決されれば、検査費用として年間最大54.85ポンド(約9000円)を節約できることになる。現行法では、登録から3年以上経過した車両はMOTの認定証が必要で、毎年更新しなければならない。40年以上経過した車両は免除されるが、それでも毎年点検することが推奨されている。

テレグラフ紙によると、この計画は、ジョンソン首相が議長を務める生活費審議会(Cost of Living Committee)の承認を得る必要があるとのこと。

しかし、英国の自動車業界団体の多くはこの案を強く批判している。車両の問題の発見が遅れることで修理代が高くなるため、提案された節約額よりも実際の負担額が大きくなると主張しているのだ。

業界団体は猛反発 メリットは皆無?

AA(英国自動車協会。ロードサービスなどを行う、日本のJAFのような存在)の広報担当者は、次のようにコメントしている。

「毎年55ポンドかかるMOTを2年ごとにすることで、ドライバーにとって修理代が高くなるだけでなく、道路がより危険になり、整備業界の雇用も危険にさらされることになる」

検査間隔を延長することで、クルマの問題が深刻化し、結果的にドライバーの負担増に繋がり、公共の安全性も損なわれるというのが主な団体の主張だ。
検査間隔を延長することで、クルマの問題が深刻化し、結果的にドライバーの負担増に繋がり、公共の安全性も損なわれるというのが主な団体の主張だ。

「政府はつい最近、交通安全を理由にMOTを2年ごとに変更することを断念したばかりだ。AAの世論調査では、年に一度の健康診断がもたらす安心感を好むドライバーから(MOTは)圧倒的な支持を得ている」

「MOTは重大で危険な欠陥を明らかにするもので、車両を安全な状態に保つことがいかに重要であるかを示している」

AA代表のエドモンド・キングはツイッターで、こうつぶやいた。

「94%のドライバーが交通安全にとって『非常に』または『かなり』重要であると回答している。MOTは大多数のドライバーに評価されており、3年以上乗った車両は少なくとも年に一度、安全性と排ガスに関する独立したチェックを受けるものだ」

一方、RAC(英国王立自動車クラブ)の政策責任者であるニコラス・ライズは、次のように述べている。

「MOTの目的は、自動車が道路を走行するための基本的な安全性を満たしているかどうかを確認することである。それを毎年から2年ごとにすることで、走行に適さない車両の数が劇的に増加し、道路の安全性がはるかに低くなる可能性がある」

閣議に出席したある関係者は、テレグラフ紙に対し、「年1回の検査から2年1回の検査になれば、MOTの更新費用は半分になる。それは、保守党があなたの味方であることを示す政策だ」と語った。

自動車部品メーカー団体のIAAF(独立系自動車中古部品業者連盟)もこの提案を批判し、検査が延期されれば、独立系の自動車整備工場は財政的な打撃を受けるだろうと主張している。

IAAFの最高責任者であるマーク・フィールドは、次のように述べている。

「MOTの頻度が問題になるたびに、検査頻度の延長はドライバーの修理費、保険料、有害排出物の増加に繋がり、英国の道路を走る欠陥車の増加により交通安全も低下することが疑いなく証明されてきた」

「また、新型コロナウイルスの流行期間中も営業を続け、労働者や一般市民の安全・安価な移動手段を確保してきた何千もの独立系ガレージや、自動車サプライチェーン全体にとっても大きな打撃となるだろう」

SMMT(英国自動車製造者販売者協会)のマイク・ホーズCEOは、次のように述べている。

「自動車業界は、物価の上昇や家計の圧迫に対するさまざまな懸念を共有している。しかし、安全は常に最優先されなければならない。今日の自動車はかつてないほど信頼性が高くなっているが、定期的な自動車安全検査は、ブレーキやタイヤなど通常の運転で摩耗する安全上重要な部品が適切に点検・整備されていることを保証するものだ」

「自動車の走行距離が伸びている今、MOT間隔の延長はセーフティネットを弱体化させることになる。道路、ドライバー、乗員、歩行者、その他の道路利用者の安全を確保するため、新車3年目の初回検査後、毎年点検・整備を実施しなければならない」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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