素晴らしき3種の英国スポーツ トライアンフ・スピットファイア MGB ロータス・エラン 前編

公開 : 2022.05.22 07:05  更新 : 2022.08.08 07:11

1960年代に1つの絶頂期を迎えた英国スポーツ。スピットファイアとMGB、エランの魅力へ英国編集部が迫ります。

1962年に発売された3種の英国スポーツ

戦争は社会を狂わせる。終戦から10年以上が経った1957年、当時の英国首相、ハロルド・マクミラン氏はかつてない好景気だと発言したが、一般市民が実感できたのは1960年代以降。ビートルズが歌うラブ・ミー・ドゥが、上向きの気持ちを支えてくれた。

調子を取り戻しつつあった自動車メーカーは、新時代の到来を告げるモデルを次々にリリースした。好景気に沸く北米市場の、強い購買意欲を持つ若い層へアピールする必要があった。

ブリティッシュ・グリーンのロータス・エラン 1600と、パウダー・ブルーのトライアンフ・スピットファイア 4、ライトブルーのMGB
ブリティッシュ・グリーンのロータスエラン 1600と、パウダー・ブルーのトライアンフ・スピットファイア 4、ライトブルーのMGB

今回ご紹介する1962年発売の3台は、10年以上に渡ってブリティッシュ・スポーツのイメージを強く牽引した。トライアンフ・スピットファイアにMGB、ロータス・エランが、英国車の1つの顔になった。

歴史的なスポーツカーの登場から、60年が経過する。その魅力をオーナーとともに確かめるのに、グッドウッド・サーキットほど最適な場所はない。スピットファイアと倍以上の価格差があったエランが並んでも、不思議なほど違和感もない。

スタンダード・トライアンフ社がスピットファイアの構想を練り始めたのは、1956年。同社の小型サルーン、ヘラルド用シャシーを利用することで、適切な改良を加えつつ開発費を抑えることが目指された。

ヘラルドの948ccエンジンを搭載した、「ザ・ボム(爆弾)」という仮称のプロトタイプは1960年に仕上がった。以前から関わりのあったジョヴァンニ・ミケロッティ氏が、量産モデルへ非常に近い、小柄でチャーミングなスタイリングを描き出した。

ヘラルドのシャシーを短縮し流用

一方でその頃、経営的に厳しい状態にあったスタンダード・トライアンフ社は、レイランド・モーターズ社によって救済される。1961年4月に完全な傘下となり、「爆弾」はデザインスタジオの隅へ一度は追いやられてしまった。

しかし、ひっそりカバーの掛けられたプロトタイプを、上層部のスタンリー・マークランド氏が発見。無事に量産化への道を歩むことになった。

トライアンフ・スピットファイア 4(1962〜1980年/英国仕様)
トライアンフ・スピットファイア 4(1962〜1980年/英国仕様)

スピットファイアは、実際以上にスタイリッシュだと見る向きもある。それでも、1960年の映画「甘い生活」を彷彿とさせる、陽気なロードスター的な雰囲気は当時の大きな魅力だったに違いない。

主任技術者のハリー・ウェブスター氏は、ヘラルドのシャシーを約215mm短縮。サイドメンバーを置き換え、2シーターとして適した構造へ作り変えた。小柄なシートを、フレーム中央の低い位置へ搭載できるようにした。

ボディは溶接で組み立てられ、12の固定ポイントでシャシーと結合。スプライトとは明らかに異なる、ゆったりした車内空間と実用性を実現した。

ただし、洗練性は不十分でもあった。ラック&ピニオン式のステアリングに、コイルとウィッシュボーンという構成のフロント・サスペンションも、ヘラルドから流用だった。

横向きのリーフスプリングとスイングアクスルのリアも同様。歓迎されない特徴だったのが、コーナリング中のアクセルオフでキャンバー角が大きく変化すること。長いモデルライフで、改良を受けたけれど。

ブレーキは、フロントにディスクが与えられていた。当時は自慢できる装備といえた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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